酒提供の緩和、割れる賛否 「明るいニュースの印象操作では」の声も
政府は9日、新型コロナウイルス対応として緊急事態宣言が出ている地域でも、条件付きで11月ごろをめどに酒類提供などの制限を緩める方針を打ち出した。経済回復に向けた菅政権の試みは功を奏するのか。街では歓迎と戸惑いの声が交錯した。
「生活できない」と辞めていった従業員
「酒類提供の自粛要請が始まった時よりも感染者が多いのに、なぜ緩和の話が出てくるのかわからない」
東京・新橋で和食店「花未月(はなみづき)」を営む平松美保子さん(76)は、緩和の流れは「うれしい」としつつ、複雑な胸の内を明かした。
店の客層は、会社の懇親会や接待で訪れるサラリーマン中心。安心して食事ができるように、アクリル板や消毒液を各テーブルに完備したが、客足はコロナ禍前の1割以下。収益の柱だった酒も出せず、赤字が続く。
昨春の緊急事態宣言で休業した際、「これでは生活できない」と辞めていった従業員がいた。「店のことをよく分かっている人がいなくなるのが何よりもつらかった」。銀行や国の制度で借りた金額は2500万円超。午後7時に始まった菅首相の会見にも無念さが募った。「コロナ禍の1年、政策の何が良くて何がダメだったのかわかるように話してほしかった」
東京・麻布の日本料理店「魚可津(うおかつ)」。菅首相が会見を始めた午後7時、約70席ある店内の客は3人だった。店主の正木秀逸さん(48)は「いつもこんな感じです」と肩を落とした。
鮮魚の仕入れのために毎朝足を運ぶ豊洲市場にかつての活気はなく、商店街のなじみの飲食店も次々と閉店した。原価が低い酒は売り上げの半分近くに上るというが、「酒が出せるようになったとしても、感染の状況次第ではまたもとに戻るかもしれない。コロナ根絶がない限り終わりは見えないと思う」と話した。
「感染者増えたら 同じことの繰り返し」
行動制限の緩和の動きをどう受け止めたか、街の反応は「賛否」が割れた。
「飲食店ばかりしめつけるのはもう限界でしょう」。東京都中野区の会社役員、中川喜三郎さん(82)はそう受け止めた。菅政権でのコロナ対策は緊急事態宣言下の五輪開催など「国民に一致団結して対策するよう求めながら、国が真逆のことをやってきた」とみる。「お酒が解禁になったら、感染対策はした上でしばらく会ってない友人の店に顔を出したいですね」
神奈川県大和市のアルバイト男性(25)は「方針を打ち出すのはちょっと早いのでは」と感じた。減少傾向だが、まだまだ感染者数は宣言発出時よりも多いからだ。「これでまた感染者が増えたら、同じことの繰り返し。誰も言うことを聞かなくなってしまうのではないか。歓迎の気持ちよりも心配の気持ちの方が強い」と話した。
東京都東久留米市の女性看護師(61)は「緩和の流れによる気の緩みが出てしまわないか。医療従事者としてはしわ寄せが心配」と懐疑的だった。
緊急事態宣言がすでに3カ月以上続く沖縄県。那覇市の国際通り近くの飲食店「琉宮ダイニング亀千人久茂地店」の城間政彦店長(44)は行動制限の緩和を見据え、すでに系列店舗計5店の社員らで会議を開いた。「やっと前向きな話ができそうだ。長い間、なんとか店をつぶさずに耐え抜いた」と話した。
社会心理学者「一部の国民には、恐怖だけが増幅」
政府が示した行動制限の「緩和」をどう考えればいいのか、識者に聞いた。
竹村和久・早稲田大教授(社…
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