ホームレスへの差別発言 「過激さで稼げる」仕組み、変えるには

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篠健一郎
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 チャンネル登録者数が約240万人の人気ユーチューバー、メンタリストのDaiGo氏が、ユーチューブ上でホームレスや生活保護受給者に対する差別的な発言をし、ネット上での批判を受けて謝罪しました。

 ユーチューブ、ツイッターフェイスブックなどの「プラットフォーム」では、差別的な内容の投稿がしばしば問題になってきました。「関心を集めたもの勝ち」の仕組みが、過激な発言を助長しているという指摘も。一方、表現の自由という観点からは、規制に慎重な声もあります。

 事業者であるプラットフォーム側にはどんな責任があるのか。過激な内容で注目を集めることで閲覧数を伸ばそうとするやり方に歯止めをかける方法はあるのか。

 情報法が専門で、インターネット上の「表現の自由」に詳しい九州大の成原慧准教授に聞きました。

法的な問題は……

 ――DaiGo氏は、8月7日に公開した動画で「生活保護の人たちに食わせる金があるんだったら猫を救ってほしい」「ホームレスの命はどうでもいい」などと発言をしました。今回の発言は、法的にはどのような問題があるのでしょうか。

 まず整理をすると、ネット上で問題となるコンテンツには、大きく分けて、法令に違反する「違法情報」と、違法ではないけれども人々や社会に害をもたらすおそれのある「有害情報」の2種類があります。違法情報については、法令に基づく対応が求められますが、有害情報にどう対応するかは、事業者や利用者側にゆだねられています。

 違法情報は、名誉毀損(きそん)やプライバシー侵害、著作権侵害など他人の権利を侵害する情報のほか、わいせつなど法令に違反する情報のことです。

 今回の発言は、ホームレスや生活保護受給者に対する差別的な内容で、影響を受けた視聴者がホームレスを襲撃するなど弱者の人権や生存を脅かす行為につながるおそれもある点で問題だと思います。ただ、発言自体が特定の個人の権利を侵害しているかというと、法的には「侵害していない」ということになるでしょう。

 (フジテレビの番組)『テラスハウス』に出演した木村花さんがSNS上で中傷された事案などネット上の誹謗(ひぼう)中傷では一般に、特定の個人に対して名誉を毀損したり、侮辱したりする情報が広がり、個人の権利が侵害されています。一方、今回のDaiGo氏の発言は、特定の個人の権利を侵害したとまでは言えないでしょう。ホームレスの●●さん、生活保護を受けている●●さん、などと名前をあげて特定の個人をおとしめるようなことはしていないからです。

 一般論でホームレスや生活保護受給者の価値を否定するような発言をしたとしても、日本の法律では違法とは言い難いのです。『ヘイトスピーチ解消法』も制定されており、「不当な差別的言動は許されない」と宣言した上で、国や自治体が取るべき対策を定めていますが、ヘイトスピーチが違法だとされているわけではありません。

 また、この法律では、ヘイトスピーチを外国人や外国出身者に対する不当な差別的言動と定義しており、ホームレスや生活保護受給者に対する差別的言動は対象になりません。ただ、プラットフォーム事業者の社会的な影響力の大きさを考えると、法的責任がないから何も対応をしなくて良いということにはならず、事業者には自主的な対応が期待されています。

注目集めれば稼げる仕組み

 ――プラットフォーム上ではこれまでもしばしば、過激な言動が問題となってきました。構造的な問題はあるのでしょうか。

 ユーチューブの場合、投稿した動画の再生数に応じて広告収入が得られ、自身のビジネスも宣伝できます。ユーチューバーなどネット上で大きな影響力を持つインフルエンサーは、自分のコンテンツをどれだけ見てもらえるかがビジネスに直結します。DaiGo氏の一連の言動の背景には、できるだけ関心を集めて閲覧数を増やし収益を上げたいという動機があるのではないかと思います。

 ネットは「関心の原理」で動いており、「関心を集めた者勝ち」な面があります。こうした仕組みは、「アテンションエコノミー(関心経済)」と呼ばれます。利用者の関心が経済的価値になる経済です。過激発言の問題に対応するためには、その都度の関心を高めれば稼ぐことができる仕組みそのものを変えていく必要があるのかもしれません。

記事後半では、プラットフォーム事業者による自主的な対応における問題点や利用者にできることなどについて聞きました。

 ――どうすれば変えられるのでしょうか。

 多くのプラットフォームでは…

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この記事を書いた人
篠健一郎
経済部|電機・IT業界担当
専門・関心分野
テクノロジー、AI、データ分析
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    ドミニク・チェン
    (情報学研究者)
    2021年9月1日21時16分 投稿
    【視点】

    成原先生の法的な状況の整理は非常に明快で、対処方法の議論を助けてくれるものです。結局は、プラットフォームの倫理的な決断と、利用者による選択に任されている状況だと思います。 アテンション・エコノミーは2000年代初頭に、ネットビジネスの要点

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  • commentatorHeader
    伊藤大地
    (朝日新聞デジタル編集長)
    2021年9月1日14時43分 投稿
    【視点】

    一番の焦点は「内容の真偽や妥当性に関わらず、注目を集めればお金が稼げる仕組み」にあると考えています。どんなコンテンツであれ、広告回れば収益が入るプラットフォーマーに自主規制を求めても、社会的責任の範囲でやるのが限界で、本質的な解決になりませ

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