ハット2度記録で印象強烈 ザンビアけん引した21歳の主将・バンダ
1次リーグが終わり、8強が出そろったサッカー女子。イングランドを中心にした英国を含め、8チームはいずれも世界ランク10位内が占めた。一方で敗退チームにも、世界中から選手が集まる五輪ならではの発見があった。強烈な印象を残したのが、世界ランク104位のザンビアを引っ張った21歳の主将、バーバラ・バンダだ。
初出場だったザンビアは最後のブラジル戦に0―1で敗れ、決勝トーナメント進出を逃した。前半に退場者を出し、さらにGKが負傷。それでもブラジルが最後まで警戒していたのが、バンダの快足だった。
オランダとの初戦で10失点をしながら、1人で3点を奪い返した。欧州の強豪を相手に屈強なDFをそのスピードで混乱させた。
続く中国戦でもチームは4失点して引き分けたが、2戦連続でハットトリックを達成。圧巻だったのは4―3と一時はリードを奪った勝ち越し点だ。味方の縦パスがずれて相手に渡りそうになったが、DFを追い抜いてボールをかっさらい、ゴールを決めた。バンダの足がミスパスをパスにした場面だった。
一大会でハットトリックを2度記録するのは史上初。それでも、「私一人ではなにもできない。アシストしてくれた仲間に感謝したい」と語った。
昨年から中国女子リーグでプレーする21歳はユニークな競技人生を歩んできた。
首都ルサカに生まれ、サッカー好きだった父親の影響で6歳からボールを蹴り始めた。貧しい暮らしの中で夢中になった。幼いころからこっそりと家を抜け出しては、男の子に交ざって才能を示していたという。2014年にコスタリカで開催された17歳以下の女子ワールドカップ(W杯)に13歳で出場した。
18年にスペインリーグに移籍するまでは、プロボクサーとしても活動した。5戦全勝の記録が残り、「とてもいい選手だった」と自ら振り返っている。「ボクシングの経験は状況を早く判断し、攻守のバランスを理解することに役立った。これはサッカーに通じる大切な能力だ」という。
ピッチの外での活動も広げつつある。今年に入って、自身の名前を掲げた財団を設立。スポーツを通じて女性を支援し、経済格差や暴力、早婚などの問題に取り組み始めた。
ザンビア代表のムワペ監督は「彼女の練習に取り組む姿勢はほかの選手とは違う。日々、何かを学ぼうとしている」と彼女の成功を確信しているという。
初めての五輪で12本のシュートを放ち、チーム7得点のうち6点をたたき出した。「最大の夢は世界トップ級の選手になり、足跡と名前を残すこと」と語った。夢の実現を予感させる一歩を東京五輪に刻んだ。