隕石?カルデラ?「見えないクレーター」が生んだロマン
高松の地下深く 大量の水眠る!?
1994年夏、朝日新聞の1面トップに、こんな見出しが躍った。高松市郊外の仏生山町周辺の地下に、直径4キロの巨大な陥没地があることがわかった、と伝えていた。
その陥没地は「高松クレーター」と呼ばれ、発見した研究者らの間では「隕石(いんせき)の衝突跡か、それともカルデラの跡か」と論争が繰り広げられた。
だが、香川県民の関心は別にあった。陥没した「くぼみ」にたまっているとされた、大量の地下水だ。
その夏、香川県は記録的な渇水に悩まされていた。給水制限で1日5時間しか水道が使えない日が続き、讃岐うどん店のメニューから、うどんが消えた。ため池には水が盗まれないよう夜通し見張り番がつき、半世紀ぶりに雨乞いの踊りが復活した地域もあった。
そんな時、降ってわいた「大量の地下水」の存在説。四国の水がめである早明浦(さめうら)ダム(高知県)の7倍以上の水量とも推定され、県民の期待は膨らんだ。
ただ、クレーターは地下にあって見えない。仏生山町周辺は平野が広がり、小さな山やため池は点在するが、陥没地の面影はない。
発見の足がかりになったのは、金沢大の研究チームによる重力調査だった。地震の予知や地下資源の発見につなげる調査を各地でしていたところ、重力の値が周囲より低くなっている仏生山周辺に関心を持った。地下の岩盤にくぼみがあり、そこに広がる密度の低い砂利の層に大量の水が含まれていると推測した。
高松市は95年、専門機関に委託し、金沢大研究チームの仮説をもとに詳細な調査に乗り出した。これまでのボーリング調査のデータなどで、クレーターの内部構造を詳しく分析した結果、地下に大量の水があることが裏付けられた。
仮説と違っていたのは、くぼみを埋めていた地層の中身。砂利の層は薄く、大半は軽石のような火山性の岩盤だった。水は岩の隙間に詰まっている状態で、一度に大量にくみ上げられない。報告書は「渇水用の水源として期待できるものではない」と結論づけた。
県民は落胆したが、報告書にはこんな記載もあった。「岩盤地下水の利用としては(中略)温泉が候補として考えられなくはない」――。渇水対策となる1日十数万トンもの水量は取れないが、水脈を掘り当てれば、温泉に使える程度の水は出てくるだろう、という内容だった。
それから約四半世紀経った現在、クレーターの北西部付近にあたる高松市の県道を車で走ると、大きな看板が目に飛び込んでくる。
「高松クレーターの湯 天然温泉きらら」
クレーターと地下水の存在を報道で知った地元住民が、実際に温泉を掘り当てたのだ。
当時、この場所に倉庫を持っていたクレーン会社の社長が掘ったところ、地下約300メートルで源泉が湧き出た。2001年に開業し、一枚岩をくりぬいてクレーターを模した浴槽も置いた。「きらら」は、光りながら落ちてくる隕石をイメージして名づけたという。
ただ、「隕石説」は根拠に乏しいとされている。04年、高松クレーターを隕石跡として国際データベースに登録する動きがあったが、証拠不十分として見送りに。現在は、約1400万年前の火山活動によってできた「カルデラ」だったという説が有力だ。
噴火でくぼみができ、その際に発生した大量の火砕流に含まれる小石や火山灰がたまり、くぼみは地下に埋没したとされる。同時期には広い範囲で火山活動が活発化しており、愛媛の石鎚山や紀伊半島にも同時期の地下カルデラ(コールドロン)がある。
それでも、隕石説をあきらめきれない人は少なくない。「きらら」の森川元國店長は「隕石だと考える方がロマンがあっていいな」。地下の見えないクレーターをめぐる熱気は冷めそうにない。(木下広大)
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