閉経後こそ楽しい人生 女性医師が語る大切な下半身ケア

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文・高橋美佐子 写真・井手さゆり
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 「50歳未満はお断り」。そんな理念を掲げる女性向けのクリニックが、横浜・元町商店街の一角にあります。「女性医療クリニックLUNA(ルナ)ネクストステージ」。日本では昨年、女性の2人に1人は50歳を超えました。とはいえ、なぜ、こんな大胆なコンセプトを打ち出したのか? ここを含めて計3カ所を展開する医療法人グループ理事長で女性泌尿器科医の関口由紀さん(57)は「女性は閉経してホルモンの呪縛から解放されてからが一番良い時期なので、最高の人生を歩んでもらいたい」と語ります。じっくり話を聞きました。

 ――なぜ閉経した女性に的を絞った医療を?

 対象を50歳で分けたのは、女性はそこで人生も病気も変わるから。当然ながら、私自身の「行く道」でもあります(笑)。女性が50歳前後で死んでいたころは、こういう医療はいらなかった。

 ここでは内科、美容皮膚科、形成外科も受診できるほか、理学療法士に個別指導も受けられます。手術室や運動用スタジオも備えています。実はすぐ下のフロアが、50歳未満向けのクリニックになっています。婦人科と乳腺外科が中心で、仕事や育児などで超多忙な年代にスピーディーに対応しています。

 女性の体は、40代までは卵巣から出る女性ホルモンで守られています。それが閉経に向かって次第に減少していくと、骨や筋肉が急激に衰えていきます。血管も影響を受けるので、動脈硬化高血圧脂質異常症糖尿病も顕在化します。

女性の下半身トラブルとは

 そうしたなか、多くの女性が更年期前後から自覚し始めるのが、下半身のトラブル。具体的な症状は尿失禁、腟(ちつ)から膀胱(ぼうこう)や子宮などが体外へ出てしまう「骨盤臓器脱」、外陰部の乾燥・かゆみ・痛み、腟の萎縮、再発性膀胱炎・性交痛……。

 これらは、骨盤の下で膀胱や子宮などを支える筋肉群・靱帯(じんたい)・筋膜・皮下組織で構成されるプレート臓器「骨盤底」が、緩んだり傷ついたりして起きます。原因は女性ホルモンの低下による筋肉や皮下組織の衰え、出産時の損傷、遺伝などですが、本人が口にしづらい上、医療界も「命にはかかわらない」と放置してきました。一連の症状に「GSM(閉経関連尿路生殖器症候群)」という概念を国際学会が与えたのは2014年。閉経してからの女性の半数にあらわれるトラブルを「病気」と位置づけたのです。

 寿命が延びた今、私たちは90歳まで生きるはず。最後まで自分で身の回りのことをし、ニコニコと笑顔で前向きに生きたいなら、50歳から80歳までは準備期間ととらえて、体と心をしっかり養生してください。ホルモンが足りなければ補い、運動し、骨密度や筋肉量を維持することが大切です。体が痛くて動けなくなり、ラスト10年は寝たきり、とならないために。

 ――あえて「女性泌尿器科医」を名乗るのはなぜでしょうか?

 泌尿器科の場合、定年後の男性患者は前立腺肥大の薬をもらいにきちんと通いますが、女性は55歳や60歳で受診しても次第に足が遠のいてしまう。尿漏れを訴えたけど医者に冷たくされて傷ついた、という声もよく聞きます。GSMはかつて「老人性腟炎」「萎縮性腟炎」などと呼ばれ、治療は軟膏(なんこう)を塗ったり腟剤を入れたりするぐらい。つまり泌尿器科は、生理が終わった女性の受け皿になっていなかったんですね。

 私も医者になってからの約10年は、大学病院で年配男性の患者さんを中心に診ていました。28歳の時に「ねるとんパーティー」で知り合った会社員と結婚、すぐに生まれた1人目の息子を育てながら働いていたのですが、だんだん行き詰まりを感じるようになった。

 36歳で大学院に入ると、念願だった2人目を妊娠しました。私自身が研修のために産婦人科に通う一方、同じころに現在のNPO法人「女性医療ネットワーク」の世話人である婦人科医らとも出会ったんです。仲間と学び合うなかで、女性医療の中の「女性泌尿器科」の意義と可能性を感じました。

 そのころ勤めていた東京・銀座のクリニックには、顔は多額のお金をかけていて相当若く見えるのに、性器は全くケアしていないので実年齢より老化している中高年女性たちが通っていました。とても不自然な気がしました。

 そのころ開業しようとしている友人の内科医から「女性外来をやるので手伝いに来ないか?」と誘われたんです。私は、中高年女性の健康全体をみながら女性泌尿器科を究めたいと思っていたので「ぜひやりたい!」と答え、共感する医師や看護師、事務員を集めて準備し始めました。でも友人と理念面で折り合えず、計画は白紙に。すると周りは「あなたが自分でやればいいじゃないか」と。私は、自分も思春期に悩んだ性的欲求など、セクシュアルな問題も扱いたかったんです。それも含めて中高年の健康を見つめ、寄り添う施設を05年春、横浜・元町に開業しました。41歳でした。

どんな治療をするの?

 ――クリニックではどんな治療をしているのでしょうか?

 ご紹介したいものの一つは「…

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    岡本峰子
    (朝日新聞パブリックエディター)
    2021年6月12日18時45分 投稿
    【視点】

    医学研究において人間の体は「男性」を基準として考えられてきた歴史が、現代医療においても色濃く残っています。女性が苦痛を訴えても体の病気と診断されず、「心因性」などとされる例の多いことは、昨年邦訳が出版された「存在しない女たち」(河出書房新社

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