富を失っても自由を守る 香港の歌手デニス・ホーの闘い

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関根和弘
映画「デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング」の予告動画
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 中国政府による統制が強まる香港で民主派のデモに参加し、逮捕もされた歌手デニス・ホーさん(44)に密着した映画「デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング」が公開中だ。当局から「要注意人物」とみなされ、商業的な成功を失ってもなお、民主主義を守ろうとする覚悟が描かれる。スー・ウィリアムズ監督は、歌手でありながら民主活動家としての側面を強める彼女に「芸能活動と、彼女が生活する香港で起きている現実とを切り離すことはできない」と寄り添う。

 作品前半では、ホーさんがスターダムに上り詰めるまでが再現される。子どもの頃、家族とカナダに移住するも歌手になることを夢見て、あこがれていた香港の歌手アニタ・ムイさんに「弟子」入り。2001年にデビューし、数々の音楽賞に輝いた。

 ムイさんの死後は、自らが香港の歌謡界をリードしていく存在となる。その人気は中国本土だけでなく、海外にも広がっていく。

 後半では一転、相次ぐ苦難に見舞われる彼女を追う。

 社会的弱者に寄り添う活動に関心を持ち始め、12年にレズビアンであることを公表。14年には香港政府行政長官選挙をめぐる民主派のデモ「雨傘運動」に参加し、最前線で座り込みを続けたことで逮捕される。

 所属していたレコード会社からは契約が打ち切られ、スポンサーも撤退。ともにステージに上がってきた演奏家たちも離れていく……。

 そんな明暗は、民主主義を発展させてきた香港への中国政府による締め付けが強まってきた近年の状況と重なる。

 「暗黒の時代」。ウィリアムズ監督は今の香港をそう評する。

 苦境に陥ったホーさんについて、当初は「見ていて悲しかったし、彼女自身、孤独の恐怖を感じている」と見えたという。

 だが、デモに参加するため、路上に現れた彼女が群衆からサインや写真をねだられる様子に「たくさんの人たちが彼女のことを覚えていて、尊敬し、愛してもいる」と確信したという。

 米国出身のウィリアムズ監督だが、中国とは縁がある。祖父が中国で働き、母も中国育ち。仕事における接点は1980年代、映画のリサーチャーとして働き始めた際に、映像図書館で中国の古いフィルムを大量に見つけた。いずれも辛亥(しんがい)革命があった1911年から毛沢東が実権を握る1949年までの映像だった。

 これをもとに「中国3部作」…

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