「最期は家で」かなえる1冊、在宅医療専門医が出版

大嶋辰男
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 新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、死に直面する人々をこつこつと訪問する医師がいる。「向日葵(ひまわり)クリニック」(千葉県八千代市)の在宅医療専門医、中村明澄(あすみ)さん(45)。「在宅死」の不安や悩みに応えた、「『在宅死』という選択 納得できる最期のために」を今春、出版した。

 「せきが出てきた」。八千代市内にある団地の一室。抗がん剤治療をやめた末期の胃がんを患う80代男性が訴える。「いつから?」「就寝中も出る?」。親身になって聞く。足がしびれるというと靴下を脱がせ、「ここ?」と手をあてた。

 男性はがん治療を再開するつもりはない。夫に寄り添う妻は「先生が来てくれるから不安はない」と笑顔で話した。

 別の80代男性は肝臓がんの末期。1カ月前、入院先から自宅に戻った。妻と離婚して一人暮らし。「病院は自由がない。住み慣れた家がいい」。昔から美術が好きだった。居室にはいくつもの絵が飾られていた。

 食は細り、歩行も困難になってきている。「自分の寿命は自分が知っている。先生、来年の2月ごろには逝くよ」。中村さんは否定も肯定もせず、「うんうん」。痩せた胸に聴診器をあてた。

 中村さんは沖縄県出身。東京女子医大を卒業後、大手医療機関で内科医として働いた。「病気を治してあげたくて医師になったけど、医療ができることの限界も痛感した」。10年前から訪問医療の専門医となる。これまで約800人の患者を在宅でみとった。

 コロナが感染拡大した昨春は一時的に訪問回数を減らしたが、感染予防の体制を整え、すぐに再開した。「自分が患者に感染させても、患者に感染させられてもいけない」。外出は極力控える。伸びた髪は自分で短く切った。

 患者数はこの1年で3割増えた。病院や介護施設が厳しく面会制限をしたことや、リモートワークの普及で家族に看護する余裕ができたことなどから、自宅に戻る患者が急増した。

 中には帰宅後、数時間で亡くなるケースもあった。家族といたい。家でゆっくりしたい。最期に人が求めるものはたわいないことだと、再確認させられたという。「死は避けられないが、死に方は選択できる」

 本では、在宅医療を受けるための公的な制度やサービスを、誰でもわかるようにやさしく解説している。大和書房から3月下旬に出版され、定価は税込みで1760円。

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