横浜の新交通、集客の根拠なく選定 市幹部に聞くと…

武井宏之

 【神奈川】横浜市は昨年6月、米軍上瀬谷通信施設跡地(瀬谷、旭区)と相鉄線瀬谷駅付近を結ぶ公共交通機関に新交通システムを選んだ。その3カ月前、「年間1500万人」を集客する跡地開発を決めたのに対応するためだが、集客の核となる大規模なテーマパークをめぐる交渉は、同じ時期に不調に終わっている。市はどう受け止めていたのか。

 延長約2・6キロの新交通システム「上瀬谷ライン」(仮称)は、専用軌道をゴムタイヤの車両が走る自動運転の公共交通機関だ。市によると、比較検討したLRT(次世代型路面電車)やBRT(バス高速輸送システム)より輸送力が大きく、輸送力が同程度のモノレールよりルート設定の自由度が高い。それが昨年6月に選んだ時の決め手になった。

 輸送力が必要なのは、市が昨年3月末にまとめた土地利用基本計画で、「テーマパークを核とした複合的な集客施設」を誘致し、将来的に年間1500万人の来訪者の実現を掲げたためだ。市はその4~5割が上瀬谷ラインを利用すると見込む。

 庁内の試算では事業費は700億円程度。少なくとも市が地下トンネルや駅舎などの建設費約410億円を投じる。

 だが、複数の関係者によると、相鉄ホールディングス(HD)が米大手映画会社と進めたテーマパークをめぐる交渉は昨年春、不調に終わっている。

 市は新交通システムを決める時、どう判断したのか。上瀬谷を担当する都市整備局の幹部を取材すると、「相鉄の検討状況は知らなかった」との答えが返ってきた。

 同局上瀬谷整備・国際園芸博覧会推進室の曽我幸治室長は「途中での確認はしなかった」と話す。昨年4月に今の立場に着任した時、相鉄HDが同9月ごろにテーマパークの具体案を説明すると引き継ぎを受けていたという。

 また、小池政則都市整備局長は「米国の映画会社などにいくつか当たっているとは聞いていたが、決裂したとは認識していなかった」と語った。

 ところが、平原敏英副市長は、米大手映画会社との交渉が不調に終わったことを「昨年3月か4月には知っていた」と証言した。この話を小池局長にぶつけると、「そうなんですか」と驚いた表情を見せた。

 平原副市長は「一つの事業者がダメになっても、テーマパークがダメになったわけじゃない。相手は他にもいっぱいいる」と話す。

 結局、昨年9月ごろに相鉄HDから具体案は示されなかった。曽我室長によると、交渉がまだまとまっておらず、テーマパークを核とした複合集客施設の検討を続けるので、待ってほしいと説明があったという。

 テーマパークの成否は新交通システムの事業決定に直結する。

 国土交通省鉄道局の担当者は「収支計画や需要予測がはっきりしなければ、とても許可は出せない」と言う。テーマパークなどの具体像が示され、利用客の見込みが立たなければ、軌道法に基づく上瀬谷ラインの特許は認められないということだ。

 市は今年3月末までの予定だった国土交通省への特許申請を先送りした。2027年に跡地で開催される国際園芸博覧会(花博)までの開業目標に「黄信号」がともった。花博は3~9月の半年間で1千万人以上の有料来場者を見込み、市はその輸送手段として新交通を期待している。

 相鉄線瀬谷駅付近の新駅の位置が定まらないという新たな難題も出てきた。新駅が想定されるのは、商業施設や学校などが立ち並ぶ市街地。新駅は地面を掘り進めて地下に設ける。工事による周辺への影響を考えると、駅位置決定は容易ではない。

 これらの解決後、運行事業者が特許を国交省に申請するが、市の第三セクター「横浜シーサイドライン」や市交通局などが候補とみられる運行事業者も、まだ決まっていない。

 あと6年を切った花博までの開業は、刻一刻と厳しくなっている…

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