NHK値下げの社説を書いた 総務省に呼び出された

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論説委員・田玉恵美
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田玉恵美の「多事奏論」 拡大版

 紙面では4月7日付で掲載した田玉恵美論説委員の「多事奏論」。朝日新聞デジタルでは拡大版でお届けします。

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 1月の末、総務省に呼び出された。その日の朝刊に私が担当した社説が載っていた。総務省担当の同僚から電話があり、役所の人が記事のことで話をしたいと言っているという。いったいなんだろう。

 霞が関へ出向くと、初対面の課長と広報室長が出てきて「事実と異なる。抗議させていただきたい」と言った。社説で私は、NHKが受信料値下げを決めた背景に政治の圧力を感じると書いた。大臣が再三値下げを迫って方針が変わったからだ。しかも、実際の値下げ幅はまだ決めていないとNHKが説明したのに、5日後に菅義偉首相が国会で「月額で1割を超える思い切った引き下げ」を宣言した。その2日後、NHKは首相の発言をなぞるかのように「衛星契約の1割下げをめざす」と表明する。まるで国営放送みたいだ。

 だが課長は、「総理演説の前にNHKが会見で自ら値下げ幅を表明している」と主張した。「説明がうまくない」ので伝わらなかっただけだという。たしかに、たとえ話のなかで「300円」という数字は出たが、単なる例示を「表明」というのは無理がある。私は「NHKが自ら値下げ幅を明らかにしたとは考えていません」と答えた。すると「何が言いたいかというと、政府の圧力でNHKが1割値下げを決めたなんて話じゃないんですよ」「圧力だ、口出しだ、とネガティブな言葉で批判されるが、我々は大臣として持っている権限の中で意見として申し上げている」という。

 「ご見解は承知しました」と応じながら私は思った。これが忖度(そんたく)というやつか。首相はかつて、意に沿わない同省のNHK担当課長を更迭した。目の前で私に抗議をしているのは、まさに今そのポストにいる課長だ。首相や大臣の顔に泥を塗られたと感じ、強気に出てみせたのか。

 もう一つ課長は気になることを言っていた。社説で「NHKが唱える『自主自律』とはいったい何なのか」と書いた部分についてだ。「NHKの経営に自主自律なんてないですから。そんなことおっしゃる方は初めてなんで、びっくりしてます。自主自律は放送番組の編集の話。人事も金も握られてる。もうちょっと制度を勉強してください」「特殊法人が好き放題に経営ができるなんて仕組みは、日本にないです」

 たしかにNHKの予算や人事…

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