ALSと闘いながら無料相談を行う医師・太田守武さん

佐藤瑞季
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 千葉県八千代市の医師、太田守武さん(49)は、全身の筋肉が徐々に衰えていく難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)と闘いながら、同じ病の患者らの無料相談に乗っている。一度は死も考えた絶望から、人の言葉で救われた。今度は自分がネットなどを活用し、年間約100人の言葉を受け止め、助言を続けている。

 太田さんは早稲田大学理工学部に進んだが、ボランティア先の福祉作業所で「福祉に明るい医師がいたらいいのに」という言葉を聞いて医師を志した。大分大学医学部に進み、34歳で遅咲きの新米医師となった。訪問診療にやりがいを感じて、日々、地域を走り回った。

 約10年前のことだった。「歩き方がおかしい」。そう言われても、自覚はなかった。だが、徐々に歩きづらくなっていくことがわかるようになった。杖や車いすを使うようになり、6年前に確定した診断はALSだった。

 天職だった仕事は、もうできないのか。幼い息子を抱くこともできない。絶望して半年間、家に引きこもった。「殺してくれ」と家族に頼み、一日中死ぬことばかり考えた。

 そんな時、友人の医療従事者に強引に連れて行かれたのが、ALS患者の講演会。「家族と旅行を楽しんでいます」「子供の成長を、これからも見守りたい」。前向きに生きる患者の話を聞いて、考え方が変わった。「寝たきりになって死ぬと決めつけていただけ。何だってできるんだ」と気づいた。

 自分の闘病生活を講演で話すようになった。その後、患者や医師としての体験や知識で力になりたいと立ち上げたNPO法人「Smile and Hope」のウェブサイトを窓口に、ビデオ通話やメールを使った無料相談も始めた。

 「人工呼吸器を使って延命治療をすれば、家族に迷惑がかかる」「自分はALSなのかどうか、わからない」。患者たちのそうした悩みに向き合い、アドバイスを送った。事故で手足に障害が残ったパートナーの支え方に悩む人や、がん、脳性まひの患者や家族からも相談が寄せられた。

 太田さんは今、人工呼吸器を使い、声は出せない。動かせるのは瞳や額など体の一部のみ。瞳の動きで介護者に五十音を伝えて、文章をつくり、相談者への助言を発信し続ける。「相談は自分の生きる意味。自分も助けられている」

 ALSと診断される前から、東日本大震災の被災地支援活動を続け、被災地で暮らす人々の声を受け止め続けている。6月には宮城県聖火ランナーを務める予定だ。「被災者や難病の人に希望を持ってもらいたい」。そう意気込んでいる。

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