「リニア原発震災」防ぐ理性を 地震学者の次なる警告

有料記事東日本大震災を語る

聞き手 編集委員・佐々木英輔
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 東日本大震災の前に「原発震災」を警告した地震学者、石橋克彦さん(76)は、次の複合災害に向け、社会の姿を変えていく必要性を訴えます。原発とリニア中央新幹線の存在が南海トラフ巨大地震の被害を増幅する「リニア原発震災」のおそれも指摘。原発とリニアをめぐる構図は似ているといいます。

 ――震災前の1997年から「原発震災」の可能性を指摘していましたね。そして10年前、現実に震災と原発事故の複合災害が起きました。

 原発の地震安全性について少し調べてみたところ、地震現象をわかっていないまま「万全です」と言っていた。「これは大変だ、本気で問題にしなければ」と思ったのです。2007年の新潟県中越沖地震で東電柏崎刈羽原発が被災したことで、いよいよ現実問題だと危機感を持ち、「私たちは原発震災前夜にいる」と警鐘を鳴らしました。

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東日本大震災から3月11日で10年となります。被災地の復興や支援、福島第1原発事故への対応など、様々な分野で思いを寄せる人たちにインタビューしました。 震災の経験は私たちに何を残したのでしょうか。

 同じ年に中部電力浜岡原発の耐震安全性を認める判決が出たときには、「判決の間違いは自然が証明するだろうが、そのときは私たちが大変な目に遭っている恐れが強い」と新聞にコメントしました。その3年半後に福島で原発震災が起き、「こんなに早く大自然の審判が下るとは」と戦慄(せんりつ)が走りました。

 ――原発の安全をめぐっては様々な問題が指摘されてきました。生かされなかったのはなぜでしょうか。

 想像力を欠いていたことが大きいと思います。原子力関係者はもちろん、地震学などの専門家、有識者やメディアもです。地震で事故が起きるとしたらどんな事態になるかを記録映画でも作るように思い描いて、対策を考える。そういう姿勢が希薄なのではないでしょうか。

 敗戦のときと変わらない当事者たちの体質も大きな要因でしょう。根拠のない自己過信や、失敗を率直に認めない態度、「起きて困ることは起きないことにする」という習性などです。残念なことにコロナ禍でもそれが見られます。

 自然災害はある意味、大自然の神様が与えてくれる警告です。中越沖地震の前にも地震の揺れが原発の想定を超えたことは何度かあり、段階的に警告のレベルを上げてきていた。「次はこれでは済まないのではないか」と思うべきでした。しかし、目の前で起きたことへの対処しか考えなかった。福島の事故のあと、原発の津波対策ばかり重視したのも、その流れでしょう。次は強烈な揺れや地殻変動、本震と大余震のダブルパンチで大事故が起きるかもしれません。

 原発は巨大システムで、全体を見渡せる技術者が少ないことも問題かもしれません。地震の研究者も、研究環境がせちがらくなって、隣接領域にまで関心を持つのは難しい状況です。

 ――政府や国会の事故調査は震災翌年に終わりました。その後の検証は十分でしょうか。

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 まったく不十分です。委員に…

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