コロナ禍の自由と罰則 白鴎大学の清水准教授に聞く

聞き手・中村尚徳
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 【栃木】新型コロナウイルス感染拡大に対応するため、国会で審議されてきた特別措置法と感染症法の改正案が成立した。入院や営業の時間短縮などに従わない人に過料を科す規定が盛り込まれた。罰則は感染防止に有効なのか。自由や権利の制限をどう考えればいいのか。憲法学者で白鷗大准教授の清水潤さんに聞いた。

     ◇

 ――感染症法改正は懲役刑などの刑事罰は見送られましたが、過料を科す行政罰が残りました。

 入院や検査を強制し、拒否した人に制裁を科すことは、感染を隠そうとする動機になりかねません。精神保健福祉法などが定める措置入院などと比べても必要性が明らかでなく、必ずしも感染防止につながらないと思います。

 感染症にはハンセン病など長い差別の歴史があり、その反省から生まれたのが感染症法です。しかし、そうした歴史に目を向けずサポートすべき感染者に制裁を科すのは、差別を助長する恐れもあります。新型コロナウイルス感染症の場合、今でも感染者や対策に協力的ではない人への抑圧的な社会風潮があることを考えると、逆の方向を向いているような気がします。

 ――憲法上の問題点はないでしょうか。

 裁判所や憲法学者の間でも議論が蓄積されている分野ではなく、直ちに違憲とは言いにくいでしょう。ただ、法律の必要性や正当性を根拠づける立法事実があるのか、人身の自由や移動の自由を制約する十分な理由があるか、ということを考えなければなりません。

 人身の自由は、原則として罪を犯した場合以外には制限されない極めて重い利益です。感染前後の行動を調べる疫学調査はプライバシー侵害につながる恐れもあります。入院や検査などの強制が感染防止に役立たず、自由を制限するに足る合理性がなければ、違憲になる可能性もあります。

 ――改正特措法は「まん延防止等重点措置」の発動要件もあいまいです。

 権利を制限するには国民の代表である国会が定めた法律によらなければならないという原則があります。発動の要件が法律で定まっておらず、政令に白紙委任に近い状態にしているのは、この原則に反します。行政府による人権制限、例えば営業制限などの乱用を許してしまう危険性もあるでしょう。与野党の修正協議で国会への報告は盛り込まれましたが、国会によるコントロールや運用への歯止めが十分でない印象を強く受けます。

 ――そもそも、時短に応じないことが過料を科すほどのものなのでしょうか。

 今までは単なる協力要請でしたが、法的な強制力を持った「時短強制」になることは、営業の自由という観点から問題があります。これも立法事実の基礎がなければ憲法上許されない制限になるでしょう。

 憲法上、比例原則という考え方があります。同じ程度の目的を達成できるのであれば自由の侵害はなるべく小さくしなければならないというものです。現行法の時短要請にほとんどの業者が応じ、夜の人出もかなり減っているのに、さらに強い強制力を発動させる必要があるのか疑問ですね。

 ――罰則を伴う改正法が、ゆくゆくは戦前・戦中の相互監視、密告奨励のような息苦しい社会につながっていくのではとの心配もあります。

 ゼロリスクに近づけるため、自由のない監視社会でもいいと思うのか。その一方で、リスクを踏まえたうえで個人の自由で判断するという社会像もある。最終的には価値判断の問題に行き着くと思います。

 今回の法改正やコロナ禍は、我々の社会が自由というものをどれくらい重要に考えているかということを問いかけているのではないでしょうか。(聞き手・中村尚徳)

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