第7回「幸せに生きる」とは? 教えてくれるチーズの味

有料記事ワイン&チーズ新時代

神村正史
[PR]

 「幸せに生きる」とは――。あるIターンの夫婦が作るチーズの物語をたどると、その答えが見えた気がした。

 本土最東端の北海道根室市にある根室半島。「野鳥の楽園」とも呼ばれるこの半島の付け根に「チーズ工房チカプ」はある。チカプはアイヌの言葉で「鳥」を意味する。

 6種類のチーズを作り、販売している。それぞれに鳥の名前をつける。看板商品は、熟成に半年以上をかけるハードタイプの「シマフクロウ」だ。

14キロのチーズ 「おいしい」体が反応

 切り出す前の1ホールで14キロほどもある。断面は、表皮近くは生キャラメルのような深く濃い黄色。中心に近づくにつれてだんだんと明るい色になっていく。

 ひとかけら口に含む。

 すぐにうまみと塩味と香ばしさが口内を支配し、唾液(だえき)がどっと分泌される。体が素直に「おいしい」と反応したのだ。鼻に抜ける香りは、工房の周りに広がる牧草地の緑がオホーツク海と太平洋からの潮風になびく情景を目に浮かばせた。

 この豊かな味わいのチーズを送り出すのは菊地亮太さん(39)、芙美子さん(36)夫妻。亮太さんは神奈川県、芙美子さんは長崎県の出身。2011年夏まで、亮太さんはシステムエンジニア、芙美子さんはウェブデザイナーとして東京都内で働いていた。

 転機は、その年の黄金週間に訪れた。

 酪農を始めるために根室へ移住していた芙美子さんの姉から、「遊びにおいで。使われていないチーズ工房がここにあるよ」と連絡があった。当時、2人はチーズに特別に関心があったわけでもなく、まだ彼氏、彼女の間柄だった。1週間くらい遊びに行ってみようか、と軽い気持ちで根室へ向かった。

運命の出会い

 最寄りの中標津空港から2人を乗せた姉夫婦の車は、根室ではなく、内陸の中標津(なかしべつ)町にある牧場のチーズ工房へ向かった。女性の熟練チーズ職人に引き合わせられ、いきなり5泊6日の「研修」が始まった。運命のチーズとの出会いだった。

 「こんなものが日本にあった…

この記事は有料記事です。残り2388文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

【本日23:59まで!】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら