ありがとう阿佐鉄ディーゼル車 最終運行で輝いた雄姿

斉藤智子
【動画】阿佐鉄のディーゼル2車両がラストラン。利用者やファンは思い思いに名残を惜しんだ=斉藤智子撮影
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 阿佐海岸鉄道(本社・徳島県海陽町)の阿佐東線で30日夜、ディーゼル車両の最終運行を迎え、住民や鉄道ファンらが見送った。線路と道路の両方を走るDMV(デュアル・モード・ビークル)の今年度中の導入を目指しており、切り替え工事を進めるため、少し早いラストランとなった。

 阿佐鉄のディーゼル車は、1992年の開業時から走り続けた「しおかぜ」と、廃止された高千穂鉄道宮崎県)から譲り受けて2009年から走る「たかちほ」の2両。海部(海陽町)―甲浦(高知県東洋町)間の8・5キロを往復してきた。

 最後の一日は、沿線やホームで雄姿を撮影する人、別れを惜しみながら乗車する人たちでにぎわった。

 東京から訪れた斉藤幹雄さん(51)は、好きだった高千穂鉄道から「たかちほ」が譲渡され、阿佐鉄に乗るようになったという。午前中に最終運行された「たかちほ」に乗ってエンジン音に耳を澄まし、「阿佐鉄は、良い線路をものすごい勢いでとばしていく。長い間、よく走ったなと思う。ただ、10年くらい前と比べてお客さんが少なくなった」と話した。

 コロナ対策で各80枚に限定した最後の上下2便の乗車券は完売。海部駅では最終列車の「しおかぜ」の入線を前に、社長の三浦茂貴海陽町長が「長きにわたって住民の笑顔を乗せてきた。車両を思い浮かべながら見送ってもらえれば」とあいさつ。午後8時31分、列車が甲浦駅へ出発すると、ホームに詰めかけた人たちが車両イラストをあしらったタオルを掲げ、見送った。

線路と道路を走る未来は間近

 阿佐東線は、大正期の四国循環鉄道構想から紆余曲折を経て現在に至る。

 阿波(徳島県)と土佐(高知県)を結ぶ「阿佐線」は、牟岐から室戸を経由して後免(高知県南国市)までの区間(約125キロ)をつなぐ予定で、1965年に着工した。73年に牟岐―海部間(11・6キロ)が国鉄牟岐線の延長路線として開業。しかし、80年に国鉄再建法が施行されると、阿佐線の工事は中断した。

 87年に国鉄が分割・民営化し、88年に第三セクターの阿佐海岸鉄道が設立された。海部―甲浦(かんのうら)(高知県東洋町)間(8・5キロ)の工事を完了させ、92年3月、阿佐東線として開業した。

 待ちわびた鉄道だったが、その後、過疎化や少子化が進み、沿線の高校も統合されるなど地元の利用も伸び悩んだ。開業から続く赤字は、徳島、高知両県や沿線自治体が積み立てた経営安定基金で補っている。徳島県はDMV導入で車両自体が観光資源となり、経営改善と地域活性化につながると期待している。

 DMVは線路と道路の両方を走る。阿波海南と甲浦を鉄道モードとバスモードの切り替え駅にする工事が現在進んでいる。

 鉄道モードは、阿波海南―甲浦間(10キロ)。阿波海南と海部間(1・5キロ)はJR牟岐線の一部だったが、今年11月1日にDMVの専用路線として阿佐東線に編入された。

 バスモードは阿波海南文化村―阿波海南駅間(約1キロ)と、甲浦駅から「海の駅東洋町」を経由して「道の駅宍喰温泉」(徳島県海陽町)を結ぶ区間(約4キロ)。土日祝に限り、海の駅東洋町から「海の駅とろむ」(高知県室戸市)までの区間(約38キロ)を1往復し、かつて「阿佐線」が予定していた室戸へ直通運行する。(斉藤智子)

阿佐海岸鉄道のあゆみ

1922年 鉄道敷設法により徳島県南部から後免(高知県)に至る路線が敷設予定線に

   59年 牟岐―後免間が工事線となる

   65年 徳島側と高知側で着工

   73年 牟岐―海部間が国鉄牟岐線の延長として開業

   80年 国鉄再建法により徳島側の工事中断、翌81年には高知側も

   87年 国鉄の分割・民営化

   88年 第三セクター「阿佐海岸鉄道」設立

   92年 海部―甲浦間が阿佐海岸鉄道阿佐東線として開業

2009年 廃止の高千穂鉄道(宮崎県)から譲渡された「たかちほ」運行開始

   20年 DMV運行に向け、阿佐東線にJR牟岐線の阿波海南―海部間を編入

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