「なぜ日本語なんか学ぶの」 中国人の私、幼い日の記憶

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 第16回「中国人の日本語作文コンクール」(主催・日本僑報社、メディアパートナー・朝日新聞社)の受賞者が決まり、29日、オンラインイベントでのお披露目式があった。最優秀賞(日本大使賞)は大連外国語大学の万園華(ワン・ユワンホワ)さん(19)がコロナ禍での日本の対中支援についての思いをつづった「私たちを言葉が繫(つな)ぐ」。万さんは「まさか自分が選ばれるとは」と喜びを語った。

 2005年から毎年開かれてきた同コンクールの今年の募集テーマは「ありがとうと伝えたい―日本や世界の支援に対して」など。中国各地から計3438作品の応募があった。

 受賞81作品を集めた作文集「コロナと闘った中国人たち」が日本僑報社から出版される。詳しくは同社のサイト(http://duan.jp/jp/index.htm別ウインドウで開きます)へ。

最優秀賞に選ばれた万園華さんの「私たちを言葉が繫(つな)ぐ」

 今年の春節、中国の武漢で新型肺炎が発生し、爆発的に全国へ広がった。学校が休校し、外出も制限され、普段の当たり前の生活が当たり前ではなくなった。政府や医療関係者、ボランティアは力を尽くして疫病と戦ったが、マスクなど医療用品の不足が状況をさらに悪化させた。しかし、そんな時、日本や世界は中国に助け舟を出してくれた。

 多くの国から中国に援助物資が届けられるとともに、精神面の支援もあった。一番印象に残っているのは中国語の能力試験を実施している日本HSK事務局から湖北省への援助物資に書かれた「山川異域、風月同天」という言葉だ。日本語専攻の私はすぐにその言葉の意味を調べた。「日本と中国は海に隔てられ、山や川を共有していないが、夜空を見上げる時、同じ明月を楽しんでいる」という意味だと分かった。この言葉は平安時代に日本が唐王朝に贈った袈裟(けさ)に刺繡(ししゅう)されたもので、鑑真和尚はこの言葉に感動し、日本に渡る決意をしたという。だから、中日の友好交流の象徴とも言える言葉だ。日本HSK事務局はこの言葉を通じて、中国と一緒に苦難を乗り越える決意を表したのだろう。

 2008年中国で汶川大地震が発生した時、私はまだ7歳だったが、初めて日本という国に対して、はっきりした印象を持った。その日、私はテレビで一枚の写真を見た。地震で倒れた家屋の前で、災害救助活動をしている人が二列に並んで、被害者の遺体に向かって頭を下げていた。彼らの表情は本当に悲しそうだった。当時の私は彼らが何をしているのかわからなかったので、父に聞いた。彼らは日本からの救援隊で、地震の被害者を追悼していたことが分かった。「そうだ、私たちは同じ国に属していないが、私たちの運命はつながっている」と思った。その時から、日本は中国を助けてくれた友人という考えが私の心に根付いた。

 汶川大震災からもう12年が経った。しかし、日本に対する感謝の気持ちはいつも私の心の中に残っている。今の私はもう19歳になり、大学で日本語を勉強している。私がこの専攻を選んだ時、「多くの外国語があるのに、なぜ日本語なんかを選ぶのか?」と言う親戚もいた。それでも、私は日本語を選んだ。そして、今の私はあの時、自分の考えを堅持してよかったと思っている。周りに日本についてよく知らない人、誤解を持っている人が多いからこそ、自分の努力を通じて、その心の壁を崩し、より多くの人に本当の日本を理解してもらうべきだ。今回の新型肺炎の経験を通じて、将来、一人前の通訳者になるために日本語をしっかり学びたいという気持ちが一層強くなった。

 現在、中国の状況は大きく改善されてきたが、国外では新型肺炎の感染が拡大し厳しい状況となっている。新型肺炎を乗り越えたばかりだが、中国は日本や世界からの支援を忘れることなく、積極的に国際支援に取り組んでいる。遼寧省大連市政府は日本北九州市にマスクなど医療用品を贈ると同時に、「春雨や身をすり寄せて一つ傘」という一言を日本の人々に送った。この言葉は「春雨の中で一つ傘をともに差すように一緒に苦難を乗り越えよう」という意味だ。この言葉には、日本の支援に対する感謝の気持ちと日本と一緒に困難を乗り越える決意が込められている。言葉のかけ橋によって、両国の2千年にわたる友情は続いているのだ。これはまさに言葉の力である。

 新型肺炎の影響で、東京オリンピックも延期された。しかし、冬は必ず春になる。各国の人々が手を携えて新型肺炎と戦えば、必ず勝利の日がくるだろう。いつか、2020年を振り返って、「ああ、あの時は本当につらかった。でも、みんなが一緒に頑張ったおかげで、なんとか乗り越えられた」と言える日が必ずやってくるはずだ。来年、オリンピックでぜひ日本に行って、日本や世界の支援に対して、「ありがとう」と伝えたい。

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