第2回「悲惨な体験は嫌」求めたダム 豪雨被災地でも戸惑い
屋根まで水につかってしまい、片付けもままならない家々が今も立ち並ぶ。7月の記録的豪雨であふれた球磨(くま)川沿いの熊本県球磨村渡地区。ここに生まれ住む村議の舟戸治生(はるたか)さん(69)は少しだけ、救われた思いでいる。
舟戸さんは19日、蒲島郁夫知事が、球磨川の支流、川辺川への治水専用ダム建設を認める表明文をすべて読んだ。「命を守る熱意が伝わってきた。二度と命が失われてほしくない」
ダムなし治水を模索してきた熊本県が、川辺川でのダム建設容認へかじを切った。地元では賛否が交錯し、新しい治水のゆくえはまだ見えない。知事を容認に動かしたものは何だったのか。人命と清流とを守るすべは実現できるのか。流域を歩いた。
川が氾濫(はんらん)した7月4日。一緒にグラウンドゴルフを楽しんだこともある知人の女性が逃げ遅れ、泥にまみれた遺体を自身の軽トラックに載せた。運び込んだ先の特別養護老人ホーム「千寿園」では、心肺停止の入所者たちが並んでいた。
蒲島氏が2008年に川辺川ダム計画の「白紙撤回」を表明後、ダム以外の治水対策を模索してきたこの間、渡地区では独自に排水ポンプ場設置や堤防増設などをしてきた。だが、豪雨で舟戸さんの自宅は全壊した。「ダム以外の治水対策にも一定の効果はあったかもしれないが、命は救えなかった」
10月23日、流域住民の意…