乙武洋匡以外はいないのか 自粛中も取材が来る不健全さ

有料記事寝たきり社長の突破力

構成・戸田政考
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 今回の「寝たきり社長の突破力」は、作家の乙武洋匡さん(44)と佐藤仙務さん(29)による対談です。「障害は個性」という言葉にまとわりつく違和感とは。乙武さんが「不倫スキャンダル」で活動を自粛していたときに、ひそかに望んでいたこととは――。ユーチューブやSNSでも発信する2人が、意見を戦わせました。

SNSでは変化球も

 佐藤 乙武さんが書かれた「五体不満足」は私にとって衝撃でした。当時、小学生だったんですが、僕もいつか本を出したい、発信するような活動がしたい、と思ったきっかけです。

 乙武 出版は私が大学3年のときでしたね。その後、スポーツライター、小学校の教員、東京都の教育委員も務めました。

 佐藤 乙武さんはツイッターやユーチューブを使って積極的に情報発信しています。僕はSNSでは、だれかの批判やネガティブなことは書かないようにしていますが、乙武さんがSNSで気をつけていることって何でしょう?

 乙武 適度にジョークや笑いを交ぜていくことですね。野球でも直球ばかり投げていると打たれてしまうので、変化球を交える必要がある。それと一緒で、適度にジョークを交えることで、たまに発信する真剣なメッセージが多くの人に響くようになればと思っています。

 佐藤 ユーモアって難しいですよね。僕は寝たきりなので、自分が寝たきりであることを、笑いやユーモアにしています。乙武さんのユーチューブで、ダイノジの大地さんにエアギターを教えてもらおう、というのがありましたよね。そこでは手足がないことをうまく笑いに変えていました。昔からそうした発信ができていたんでしょうか?

厳しくなるコンプライアンス

 乙武 小さいころから笑いをとるのは好きでしたが、ここ数年、コンプライアンスが厳しくなり、こうした笑いをとることがセンシティブになっていると感じています。ただ、自分がネタならば誰も傷つきません。そこで一つ問題なのは、障害者がひとくくりにされがちなところです。

 佐藤 というと。

 乙武 私は障害者をネタにしているのではなく、私自身をネタにしています。にもかかわらず、「不謹慎だ」とか「ほかの障害者が傷つく」といったことを言われることがある。太っていたり、頭髪がうすかったりすることをネタにして笑いをとる芸人に「やめてください」と言っている人はあまり見たことがありません。では、なぜ障害者だけ、そうした意見が出てくるのか不思議です。

 佐藤 たしかに、どこまで自虐をネタにしていいのか私も迷いながらやっています。ちょっと話は変わりますが、「自分の発言が障害者みんなの意見だと誤解されないか」というプレッシャーってありませんか? もちろん、障害者のみんなの意見ではないんですが、誰よりも早く発信してきた人なのでそう捉えられることもあるのかなと。

 乙武 それは本を出したころからずっと感じてきました。私がなにか発信すれば、障害者の総意であるかのように受け取られたり、報道されたりしたこともあります。なにも語らない方がいいのか?と考えた時期もありました。でも、そうなると語る人が一人もいなくなってしまうというジレンマがあります。

 佐藤 どういうことでしょう。

 乙武 4年半前のスキャンダルで、2年ほど私はメディアから姿を消しました。そのときに期待したのは「これで、私以外の障害者がもっとメディアに出るのでは」ということです。その間、相模原の障害者施設での殺傷事件やリオデジャネイロ・パラリンピックがありました。24時間テレビに「感動ポルノ」という批判もでるなど、障害がトピックとなることがたくさんありました。

 そういうとき、いつも私に取材依頼が来るんです。活動を自粛していると言っているのに。ほかの人にも聞いてほしいと思ったんですが、私に取ってかわる人は現れませんでした。「乙武しかいない」のは不健全ですが、「乙武すらいない」はもっと不健全だと思いましたね。

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 佐藤 僕も似たような経験が…

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