北陸新幹線延伸開業延期、県や自治体驚き怒り

堀川敬部 佐藤常敬 八百板一平 佐藤孝之
[PR]

 開業は1年半延期、建設費は2880億円増額――。2023年春開業を目指している北陸新幹線の金沢―敦賀延伸について、国土交通省が11日に示した大幅な計画変更。工事の遅れが原因とされ、専門家らが再検討するというが、開業時期を見据えて様々な取り組みを進めている福井県内の首長らからは驚きとともに憤りや不満の声が上がった。

     ◇

 2023年春開業を目指している北陸新幹線の金沢―敦賀延伸に向け、福井県越前市大屋町に新設される南越駅(仮称)の建設工事が9日から始まった。駅舎の外観は同市に飛来するコウノトリをモチーフにしており、22年夏に完成する予定だ。

 建設主体の鉄道建設・運輸施設整備支援機構によると、駅舎は鉄骨2階建てで駅務室やコンコースなどがある1階の「駅本屋」が約2650平方メートル、312メートルのホームを覆う2階の「旅客上家」が約9830平方メートルで、高さは約21メートル。施工者は飛島建設など3社の共同事業体(JV)で、工事費は約55億円に上る。

 9日から駅舎の工事が始まり、クレーン車が最長11・5メートルある鉄骨の柱や梁(はり)を次々つり上げ、高架橋の上で順次組み立て作業を行った。鉄道・運輸機構の工事責任者は取材に「地元の人たちに愛される駅になるよう、安全第一に工事を進めていきたい」と語った。

 県内に新設されるほかの3駅は、福井駅が10月5日に着工しており、芦原温泉駅は今月中旬に着工予定。敦賀駅は調整中で未定という。石川県内に新設される2駅は、加賀温泉駅が10月19日、小松駅は南越駅と同じくこの日、着工した。

     ◇

 「大変驚いている」。杉本達治知事は報道陣に険しい表情を見せた。23年春開業が政府・与党の合意事項であることに触れ、「(全国の整備新幹線事業で)政府・与党の合意が守られなかったことは今まで一度もない。憤りを覚えている」と不満をあらわにした。

 建設費は昨年3月に2263億円増額されており、短期間でさらに巨額の追加となる。杉本知事は「執行体制がどうなっているのか疑わざるを得ない」と建設主体の鉄道建設・運輸施設整備支援機構を厳しく批判したうえ、「前回は工期を守るためだったが、今回は遅れるうえでの増額。何が起きたのか確認し、地方の負担を極力抑えるよう国に求めていく」と述べた。

 また、まちづくりなどの準備を進めている沿線自治体への影響が大きいとして「仮に遅れるとしても、一日も早く開業できるよう工夫してほしい」と強調。「大阪までの全線開通が遅れることにつながってはいけない」と釘を刺した。杉本知事は12日、県庁で国交省の上原淳鉄道局長と機構の北村隆志理事長から詳細な説明を受ける予定だ。

 あわら市の佐々木康男市長は「非常に困惑している。芦原温泉駅周辺で進める事業は予定通り行うが、管理運営には新たな対応と負担が生じると懸念する。建設費増に伴う建設負担金の増額については地方へ転嫁しないよう求めていきたい」などの談話を出した。

 敦賀市都市整備部の担当者は「残念だが、今後の駅周辺事業などの工期短縮に市としてできる限り協力していきたい」。開業延期については敦賀駅周辺の工事の遅れも指摘されているが、「これまで以上に機構や県、JRと連携を密にして、少しでも工期が短縮できるようにしたい」などと話した。

 福井県経済団体連合会の伊東忠昭会長は「開業延期は受け入れがたい。県内4駅周辺のまちづくりや地域商業の停滞、民間投資の腰折れ、並行在来線会社運営など、懸念される経済的影響は極めて大きい。国の責任のもと地元が納得できる課題解決を強く求める」とのコメントを発表した。(堀川敬部、佐藤常敬、八百板一平)

     ◇

 開業延期の可能性が表面化したのは9月24日。国交省が与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム(PT)などの会合で、工事の逼迫(ひっぱく)状況を説明した。

 杉本知事は石川県知事富山県副知事と10月9日、同省などに開業時期を守るよう要望。PT座長の自民党細田博之元幹事長からは「厳しい情勢」と伝えられた。杉本知事は畑孝幸県議会議長らと今月3日、建設主体の鉄道建設・運輸施設整備支援機構にも同じ要請をし、面談した北村隆志理事長は「大変厳しい状況だ」との認識を示した。

 遅延の要因の一つは、福井・石川県境の「加賀トンネル」の底部に敷いたコンクリートに8カ所、延べ約1キロにわたって生じたひび割れだ。機構によると、地下水で地盤の泥岩層が脆弱(ぜいじゃく)化して盛り上がる「盤膨(ばんぶく)れ」が起きたためで、今年3月に判明したという。

 対策として8月から長さ12メートル、直径3・6センチの固定ボルトを泥岩層下の岩盤層に打ち込み、コンクリートを地下から引っ張り隆起を防ぐ追加工事を実施している。必要な固定ボルトは計1400本で、これまでに約200本を打ち込んだ。特殊な機械などが必要で、1日1~2本のペースを上げるのは難しいという。

 今月5日、県議会の北陸新幹線整備促進議員連盟の27人が追加工事の現場を視察。山本文雄会長は「機構の経験と技術力で克服し、予定通り開業できると期待している」と述べた。(佐藤孝之)

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【お得なキャンペーン中】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら