「核兵器は悪」核禁条約が迫る大転換 傘の下、日本は

有料記事核といのちを考える

武田肇 北見英城 黒田壮吉 編集委員・副島英樹
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 広島、長崎への原爆投下から75年。核兵器を初めて全面的に違法とする国際法核兵器禁止条約」が発効することになった。だが、米ロ、米中関係が冷え込み、北朝鮮の核問題も解決しない中、核保有国や「核の傘」に依存する立場の日本や北大西洋条約機構(NATO)加盟国は背を向ける。停滞する核軍縮を後押しできるか、課題も残る。

 「全廃こそが核兵器が二度と使われないことを保証する唯一の方法だ」

 核兵器禁止条約は前文でこううたい、核兵器を非人道的で違法とみなす。この点が米ロ英仏中の5カ国だけには核保有を認める核不拡散条約(NPT)と大きく異なる。核の使用や保有、実験はもとより、「核抑止論」の否定にもつながる「使用をちらつかせる威嚇」の禁止事項もある。

 条約は批准した国だけが法的に拘束され、核保有国を含めて未加盟の国への強制力はない。にもかかわらず、ニュージーランドなど50カ国・地域が率先して批准したのは、核兵器は「存在し続けることが全人類にとって危険」とする国際法を作ることで、核兵器に対する価値観の大転換につなげたい狙いがあるからだ。

 念頭にあるのは先行して禁止条約が発効している生物・化学兵器や対人地雷クラスター弾といった非人道兵器だ。黒澤満・大阪大名誉教授(軍縮国際法)は「核保有国を縛る強制力はなくても、『核は違法』という国際規範を広げることで政治的・道徳的に核使用を困難にし、長期的に核兵器の価値を低下させる効果が期待できる」と語る。

 そうした理由から、批准国や条約を後押しした国際NGOも、国連加盟国の半数を超える100カ国・地域の批准を「次の目標」に掲げる。核保有国が無視を決め込んでも、加盟国が増えるほど風当たりが強まり、核保有国は核軍縮を加速せざるを得なくなると考えるからだ。「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)の川崎哲(あきら)・国際運営委員は「核保有国はNPTには加盟しており、『誠実に核廃絶に向けた交渉を行う義務』(第6条)をどう履行するのかがより厳しく問われることで、NPTが強化される」と話す。

 だが、核保有国や「核の傘」の下にある国にとって核兵器は「安全保障政策の根幹」(外相経験者)だ。米ロだけで世界の核兵器約1万4千発の9割を占める。東アジアでも、中国は核戦力の近代化を進め、北朝鮮は核開発をやめない。

 「核兵器と地雷では安全保障上の重みが全く違う」(外交筋)との指摘も強く、核の廃棄をどのように検証するかも発効から1年以内に開かれる締約国会議の議論にゆだねられる。核を「絶対悪」とする人類初の国際法が、短期的に核保有国や「核の傘」の下にある国々の政策変更をできるのか、道のりは険しい。(武田肇)

保有国「使える核」を模索…日本の立場は

 日本政府は、安全保障政策を米国の「核の傘」に頼っていることから、条約を批准していない。北朝鮮が核を搭載可能な弾道ミサイルで日本の大部分を射程内におさめるなど、日本周辺の安全保障環境は厳しいとして、菅政権でも前政権の方針を継承している。

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