静岡リニア工事、かみ合わぬ議論 決着へ「信頼関係を」

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聞き手・矢吹孝文 阿久沢悦子
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リニアを読み解く【下】

 水資源や生態系に関する問題で膠着(こうちゃく)状態に陥っているJR東海リニア中央新幹線の静岡工区。専門家からは、JR側に反省を求める声が出ている。そのうえで地元への補償で決着するしかない、との指摘もある。国会議員や静岡県議、地元の静岡市長、大学教授に解決策を聞いた。

①岸博幸・慶大教授「県側の主張、明確に提案して」

 今年から、静岡の民放の情報番組でコメンテーターをしている。月に3~4回は東海道新幹線で静岡に来るが、新型コロナウイルスの流行後は驚くほどガラガラになった。リニアはやるべき事業だと思うが、「このまま進めていいのか」という点はしっかり考えた方がいいと感じている。

 7月になって、リニアの静岡工区を巡る問題に自民党の特別委員会が乗り出してきた。「役所がダメなら政治家が出る」というのは国の組織がよくやる方法で、事務次官でも解決できなかった国土交通省が「戦略を変えてきた」という印象だ。

 こういった政治問題では「落とし所」が重要で、静岡県側の主張を明確にする必要がある。県の専門部会や流域市町と話し合って「どんな条件が満たされればOKなのか」という方針を示し、JR東海に提案すべきだ。提案せずに反発すると「国策を邪魔している」という構図にはめられた上に、補償も得られないという結果になりかねない。

 私も最近まで知らなかったが、大井川の水問題が地域の生死を分ける問題だということが、全国的に知られていないことも問題だ。もっとアピールすれば「それは仕方ない」と、シンパシーを得られると思う。

 その上で「条件が満たせない場合はどうするのか」を、JR東海や国に約束させる。減った水の回復や補償はどうするか、東海道新幹線の新駅は県内につくれるのか、県内にとまる「ひかり」はどれくらい増やすのか。水も保全しつつ、取るべきものは取る。したたかに県民の利益を確保することは、悪いことでも恥ずかしいことでもない。

 JR東海の姿勢は傲慢(ごうまん)だった。国交省の有識者会議で県の姿勢を批判した金子慎社長は、「お願いして工事をやらせてもらっている」という状況をわかっていない。リニアを成功させるためにも、この企業体質は直さないとだめだ。

 一方で、川勝平太知事のやり方も下手すぎる。金子社長との会談では柔和な対応だったのに、直後の記者会見で厳しいことを言う。その場にいない官僚を会見で罵倒する。言うことがコロコロ変わると、全国から「なんなんだこの人は」と思われてイメージが悪い。「来年の知事選で勝ちたいから問題を長引かせているのでは」とも思えてくる。

 2027年の開業目標にはこだわる必要はない。駅ができる沿線の期待はわかるが、リニアにはリスクもある。交通が便利になると人はすぐ快適な方に移動してしまい、準備不足の街はかえって衰退する。東北新幹線の延伸で仙台は繁栄したが、2010年に開業した新青森駅周辺は悲惨な状況だ。リニア駅で街が栄えるのではなく、魅力がある街だけがリニアで栄える。開業が遅れても、「準備への余裕ができた」と言えるのではないか。

■②小川和久・静岡県立大特任…

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