妻が亡くなった、この世で一番嫌いな場所へ  20年通う夫の後悔

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瀬戸口和秀
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 「今日、何があった?」。生前の妻とは、そんな会話さえしなくなっていた。毎日、仕事で疲れていた。その後悔が男性(68)を約20年間、JR宝塚線(福知山線)脱線事故の現場に向かわせる。妻(当時48)が亡くなった、この世で一番嫌いで、一番大事な場所へ。

 兵庫県尼崎市で暮らす男性は中学時代、友達の仲介で同学年の女の子と文通を始めた。後に妻となる川口初枝さん。同じ市に住んでいたが、中学、高校、大学と違う学校。「自分に自信がなくて、こちらから会おうとは、よう言わんかった」。大学1年の時、妻から祭りに誘われて、初めて会った。気が合い、一緒にいて居心地が良かった。大学を卒業して働き始めた翌年に結婚した。

 転勤族で、東京や名古屋、大阪、長崎などと引っ越しを重ねた。早朝から晩まで働く会社人間。毎日、仕事で疲れ果て、会社でうまくいかないことがあっても、妻に話すことさえ、しんどかった。

 その日の朝も、いつものようにトーストを食べ、コーヒーを飲み、「行ってくる」と告げて家を出た。特に、妻と会話をした記憶もない。

 会社で事故の一報を聞き、妻…

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