第5回部活も受験も負けたけど…人を大切にする国で得た自信

有料記事アジアで就活

染田屋竜太
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 就職先はどこにする? 日本から足を一歩踏み出すと、そこには躍動するアジアの舞台が待っていました。20~30代の6人が、仕事と生活を語ります。連載「アジアで就活」の第5回はミャンマー編です。

 「子どもたちに人生の目標を持ってほしい」。佐々翔太郎さん(25)はそんな思いから2017年、ミャンマーで「Live The Dream」と名付けた事業を始めた。社会人経験もなく飛び込んだミャンマーで、自ら会社を設立。現地で著名人のインタビューを映像におさめ、子どもたちに見てもらう活動を展開した。最大都市ヤンゴンに比べ、教師の数が十分ではない地方部を中心にまわった。

 庶民に人気のかみたばこを路上で売っていた過去を持ち、金の卸売り大手トップに上り詰めた男性へのインタビューを試みたことがあった。気温が40度近いなか毎日スーツ姿で男性の会社を訪れ、1週間後、やっと面会にこぎ着けた。完成した映像をフェイスブックに上げたが、なかなか再生されない。それならと、知り合いのつてを頼ってシャン州にバスで15時間かけて行き、小学校で上映した。少女の1人が見終えて涙を流していた。「自分のつくりあげたものが心に届いた」と、胸が熱くなった。

 東京出身。高校では野球部で部活に打ち込んだが、最後の夏の大会でレギュラーの座をつかめなかった。東京大を目指して猛勉強したものの、浪人しても合格できなかった。「全部負けて、プライドが傷つけられた」。中央大法学部に進んだが、目標を持てず「何かしなければ」という焦りだけが募った。劣等感が抜けず、「どうすれば周りを見返せるか」とばかり考えていた。

 大学1年生のとき、海外での語学学習や課外活動を支援する大学の奨学生に選ばれ、行き先にフィリピンを選んだ。現地のNGOで子どもたちに日本語を教えたり、炊き出しをしたりした。それまで日本を出たことはなく、海外への関心も高くない。フィリピンに行ったことのあるサークルの先輩と共通の話題をつくりたい、という軽い気持ちだった。

ストリートチルドレンに囲まれて

 マニラに着いて街に出ると、人なつこいストリートチルドレンが集まってきた。ごみ山で食べ物をさがす人もいた。その光景は心に刻まれた。自分は劣等感を抱えて生きてきた。フィリピンで出会った人たちは明日食べる米がなくても、楽しく生きようとしている。「やりたいことをやって明るく生きなきゃ」。前を向けた。もっと世界を知りたい。帰国後はバックパッカーとしてベトナム、タイ、カンボジアなどアジアの国々やアフリカなど約30カ国を旅した。

 大学3年が近づくと、就職の話題が聞こえてくるようになった。「日本で周りと同じように、新卒採用されることが自分の人生なのか」。そう考えたとき、浮かんだのがフィリピンの子どもたちの顔だった。「あの子たちのためにできることがあるんじゃないか」。社会に貢献したいだけではない。自分が行けなかった東大から大企業に進んだ人たちに誇れる人生にしたい。まだ、そんな気持ちがあった。

佐々さんは、大学を休学してインターンを始めます。「勉強をして何になるの」。子どもの素朴な疑問から事業が生まれました。記事後半では、起業までの過程やぶつかった壁などを、インタビュー動画とともにご紹介します。

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 大学3年になる2017年4…

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