コロナ治療に回復患者の血液成分 ルーツは北里柴三郎

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編集委員・田村建二
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 新型コロナウイルス感染症の治療に、回復した患者の血液成分を使う手法が試みられている。その源流は、明治から大正時代にかけて活躍した医学者、北里柴三郎だ。効果が確実な薬やワクチンが定まっていないなか、多くの患者を救う治療の決め手となるのか。

免疫力の利用狙い

 この手法は、新型コロナに感染し、後に回復した患者から血液を提供してもらい、赤血球などの血球を取り除いた成分「血漿(けっしょう)」を使う。この中には、ウイルスをたたく「抗体」というたんぱく質があり、次にウイルスが来ても再び病気にならないよう備えている。

 抗体は、事前にワクチンを打ったり、感染したりすれば、免疫反応で自分の体内にできる。ただ、ワクチンは開発中でまだない。感染しても抗体ができるまでには一定の時間がかかる。このため血漿を使って、先に治った人の免疫力を利用させてもらうのが狙いだ。

 血漿を使う手法の原理は、近代日本医学の父とも評される北里柴三郎が1890年に報告した破傷風菌での「血清(けっせい)療法」にさかのぼるとされる。血漿から血を固まらせる成分を抜いたのが血清だ。

 かつては肺炎球菌による肺炎など幅広い病気に活用され、カミュの小説「ペスト」や劇画「ゴルゴ13」の作品にも登場する。血清療法はいまも、破傷風やジフテリアなどの治療に使われている。

 新型コロナに血漿を使う試みは、中国などの研究チームからいくつか報告されている。たとえば、武漢市の30代から70代までの男女10人の重症患者に、回復した人の血漿を200ミリリットルずつ注入した研究の報告(https://www.pnas.org/content/117/17/9490別ウインドウで開きます)によると、全員の熱やせき、息切れといった症状が3日以内に大幅に改善。体内でウイルスが検出されなくなったり、肺炎が改善したりした。重い副作用は出ていないという。

 血清療法に詳しい聖路加国際病院東京都)の一二三(ひふみ)亨(とおる)・救急部副医長は「効果についてはまだ慎重に見極める必要があり、課題もあるが、新型コロナの治療に活用できる可能性も小さくない」と話す。

 薬やワクチンが実用化できたとしても、経済的に貧しい国も含めた世界中の患者に行き渡るとは限らない。一方、新型コロナの感染者は世界で500万人を超え、多くの人がすでに回復して体内に抗体をもっている。「治療はまず薬で、が大前提だが、膨大にいる回復者の抗体を活用させていただくことも、もっと考えるべきかもしれない」と一二三さんは話す。臨床研究は欧米などでも進んでいる。

 武田薬品工業は米国やドイツなど海外の製薬企業9社と提携し、血漿中の抗体を濃縮、精製してつくる「高度免疫グロブリン製剤」の開発を始めた。事業を担当する同社の後藤智子さんによると、この製剤づくりは原発免疫不全症などほかの病気で実績があり、ノウハウを新型コロナでの製剤づくりでもいかせそうだという。早ければ7月にも臨床試験を始める。

安全性の検証に課題

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 血漿による新型コロナの治療…

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