与党急ぐスーパーシティ法案 規制緩和だけではない問題

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菅原普 聞き手・三輪さち子
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 人工知能(AI)などを活用した最先端都市づくりをめざす「スーパーシティ構想」を盛り込んだ国家戦略特区法の改正案が国会で審議中だ。与党は来週中に成立させる日程を描くが、個人情報の管理や住民の合意のあり方などあいまいな点が残る。野党は新型コロナウイルス対応が急がれるなか、「不要不急の法案」と批判を展開している。

 「スーパーシティ構想」とは、住民や企業などから集めた様々な分野の情報を「データ連携基盤」(都市OS)に集約し、AIなどの最先端技術で連結させ、サービスにつなげるもの。政府は「まるごと未来都市」とうたっている。

 複数の分野にわたる規制改革をまとめて行い、テレワークや車の自動走行、キャッシュレス決済、ドローン配送、遠隔医療、遠隔教育などを進めることを想定する。担当の北村誠吾地方創生相は19日の記者会見で、新型コロナの感染拡大で政府が接触機会の削減を訴えていることを踏まえ、「一層、デジタル社会の大切さを感じている。成立を果たさなければならない」と意気込みを示した。

 今国会で成立すれば、政府は秋にも、スーパーシティ構想を進めたい自治体などを正式に公募する考え。内閣府によると、全国の54団体からアイデアの応募がある。2025年の万博の開催予定地である大阪市の人工島「夢洲(ゆめしま)」を含む地域も「候補地」に挙がっているという。

 個人情報を集める際の本人同意や、自治体が対象地域を決める際の住民合意をどう得るかなど課題も多いが、内閣府地方創生推進事務局は「個別ケースの判断」としており、具体的に定まっていない。

与党「来週成立」 野党「コロナや検察庁法に隠れて議論不足」

 法案は昨年の通常国会では実質的な審議が行われず廃案になったが、今国会では自民、公明、日本維新の会などの賛成で衆院を通過。与党は22日の参院地方創生特別委員会で可決し、来週の参院本会議で可決・成立させる方針だ。立憲民主党などでつくる野党統一会派共産党は法案に反対しており、社民党福島瑞穂党首は20日の会見で、「コロナや検察庁法改正案に隠れ、議論になっていない。法案はやめるべきだ」と語った。(菅原普)

個人情報の提供 どう本人同意? 識者の指摘

 規制緩和や公共サービスの民営化問題に詳しいNPO法人アジア太平洋資料センター共同代表の内田聖子さんに、法案の問題点を聞いた。

 ――なぜ法案が問題だと考えるのか。

 これまでの国家戦略特区は規制緩和や税制優遇などでビジネスを呼び込むものだった。しかし、スーパーシティ構想は、国や自治体がもっている個人情報や、民間企業が持つ行動履歴などの個人データを一元化して、様々な住民サービスに利用し、便利で快適な暮らしを実現しようというものだ。単に、規制緩和で農家レストランや民泊ができるという話ではない。暮らしに直結するサービスに活用するため、地域の多くの住民の生活に大なり小なり影響を与えるものだ。

 ――個人情報の扱いも問題になる。

 例えば、配車アプリを介して、市民の自家用車を利用する「通院タクシー」を導入しようとする場合、国や自治体は、情報を一元管理する都市OSを管理する事業者から高齢者の住む場所、健康状態、要介護度の情報などの提供を求められる可能性がある。政府は「個人情報保護法令に従い、必要な場合は本人の同意が必要」と説明しているが、行政機関個人情報保護法には、公益に資するなど特別な理由がある場合、本人同意なしで提供できるとも定められている。どちらが優先されるのか。政府は国会で、自治体や事業者や国でつくる区域会議が「判断する」と答弁したが、あいまいだ。

 個人が特定されないマスデータとして処理されるとしても、生体認証やプロファイリングなどに対する市民の懸念が高まるなか、人権という観点から法案が精査されたとは思えない。米国のサンフランシスコ市では、行政が町に監視カメラを導入することを禁止する条例も可決されている。

住民合意をどう取るか 海外での失敗例も

 ――住民の合意のないままで、まちづくりが進む可能性もあるのか。

 カナダのトロント市では、グ…

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