五輪延期、重なった首相と知事の思惑 「気が重い」現場

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野村周平 岡戸佑樹 長野佑介 軽部理人 前田大輔 斉藤佑介 編集委員・稲垣康介
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 東京オリンピック(五輪)・パラリンピックの延期決定から1カ月余がたった。中止だけは避けたいという国、東京都、大会組織委員会の思いが一致し、安倍晋三首相を中心に短期間で決まった1年の延期。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大はとどまらず、来夏の開催に向けた課題は山積みだ。

 「外交的に見たら、1年延期をこの短期間で決められたのは稀有(けう)なことだ。我々は遮二無二盛り上げないといかん」

 4月2日、衆議院第1議員会館の会議室。超党派の東京五輪・パラリンピック大会推進議員連盟総会で、会長を務める麻生太郎・財務相が声を張り上げた。

 国際オリンピック委員会(IOC)は3月22日の声明で、「延期を含め検討」「4週間をめどに結論」との方針を出した。その2日後の24日に延期が決まり、さらに30日には五輪開幕が来年7月23日、パラリンピックは8月24日と、日程が従来のほぼ1年後に決まった。声明発表から日程決定までわずか9日間の早期決着だった。

 東京大会の方向性を巡ってはこれまで、東京都、大会組織委員会、国がそれぞれ異なる立場で主張を戦わせてきた。今回、近代五輪史上初の延期で中心的な役割を果たしたのは、安倍晋三首相だった。

 コロナ感染が拡大するなか、安倍首相小池百合子都知事は3月に入って複数回、大会について議論を重ねた。浮上したのが、IOCへの「延期要請」だった。

 2人が1年延期で足並みをそろえられたのは、大会を景気浮揚策として位置づけることで一致したからだ。中止はなんとしても避けたい。延期幅を2年でなく1年としたのも、効果をより早めに出したいとの狙いがあったという。

 IOCと日本側のテレビ会議で1年延期の方針が決まった3月24日。安倍首相はこの会議前、組織委の森喜朗会長と2人きりで話した。

 コロナ終息までの時間を長くとるために「2年(延期)にした方がいいのでは」と提案する森氏に、首相は「ワクチンの開発はできる。大丈夫」と1年延期の主張を曲げなかったという。首相との深い政治的関係を指して「運命共同体」と表現する森氏は、「(首相は)賭けたんだよ、2021年に」と解説した。政界には、安倍首相の自民党総裁任期が21年9月末で終わることと関連づける見方もある。

 東京都にとっても、大会を経済対策の起爆剤として強調することは意味があった。都関係者は、「新型コロナによる景気悪化をどう立て直すかは国家的な問題」と主張することで、国の費用負担を引き出せるともくろむ。

 「国と東京都が早いうちから連携したことで、早期に決まってよかった」

 開幕日が決まった翌日の3月31日、首相官邸。関係者によると、安倍首相と小池知事はそうねぎらい合ったという。(野村周平、岡戸佑樹、長野佑介)

追加費用、数千億円 コロナで減収の都を圧迫

 来夏の開催に向けて、大きな壁となるのが「数千億円」(大会組織委員会関係者)とも言われる延期による追加費用をどう捻出するかだ。開催都市・東京の財政は、新型コロナウイルスの感染拡大によって危機にさらされている。

 4月15日、東京都庁。「日本経済が戦後最大の危機に直面しているいま、緊急対策を果敢に講じることで、皆さまの不安を払拭(ふっしょく)したい」。小池百合子知事は臨時の記者会見でこう述べ、緊急対策に8千億円を計上すると表明した。緊急対策の規模としては過去最多だったリーマン・ショック時の1860億円を大幅に上回る額だ。

 豊かな財政で知られる都だが、新型コロナによる景気悪化で「1兆~2兆円」(都幹部)の税収の減収が予想されている。巨額の支出と税収減という二重苦のなか、五輪・パラリンピックの延期による追加費用がのしかかる。

国もIOCも追加経費の負担に後ろ向きです。いつか聞いた「誰が金を払うのか」の議論がまた繰り返されようとしています。課題山積の現場からは「目標を失いかけている」との声も聞かれます。

【動画】コロナ対策などで簡素化されることが決まった東京五輪。その姿とは
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 大会を招致した際の立候補フ…

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