「雇用維持より失業手当の方が得」は本当か 主張を検証

田中美保 高橋尚之 滝沢卓
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 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、東京のタクシー会社が運転手約600人を解雇する方針を示したことが波紋を広げている。「雇用を維持して払う休業手当よりも、失業手当の方が働き手にとって得」というが、実際はどうなのか。問題はないのか。

 タクシー会社「ロイヤルリムジン」(東京都江東区)の担当者は8日時点の取材に、グループ会社を含めて約600人いる乗務員を全員解雇する方針で、理由は「休業手当を払うよりも、解雇して失業手当を受けた方が乗務員にとって不利にならない」からだと説明した。

 この「失業手当の方が得」という主張について、厚生労働省は一般論として「人により金額が違い、必ずしもそうだとは言えない」と指摘する。

 休業手当は、会社の都合で従業員を休ませた時、直近3カ月の平均賃金の6割以上を払う必要がある。額と期間に上限はない。平均賃金の計算にはボーナスは含めず、基本給や残業代、歩合給など毎月決まって払われる賃金が対象になる。会社が働き手に払うが、大企業は最大4分の3、中小企業は最大9割の雇用調整助成金を要件を満たせば得られる。

 一方、失業手当は、離職後に次の就職先を見つけるため、国の雇用保険制度から支給される。直近半年の賃金(上下限あり)の約5割~8割だが、年齢や雇用保険への加入期間、働き手の自己都合の離職かどうかなどで額や支給期間は変わる。日額にも上下限があり、最高8330円(45~59歳の場合)だ。支給期間も短い場合は90日しかない。どちらが金額的に有利とは、一律には言えないのが実情だ。

 そもそも「失業手当の方が働き手にとって得」という理由の解雇は、法的に認められるのか。日本労働弁護団の水野英樹幹事長は、「その理由だけでは、裁判で争えば無効となる可能性が高い」と指摘する。法律では「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」ときの解雇は無効とされているからだ。水野弁護士によると、業績悪化などによる整理解雇には、過去の裁判例から、①経営上必要か②解雇を避けるために努力したか③人選は適当か、④労働者側としっかり話し合ったか――といった四つのハードルがあるからだ。

 ただ、水野弁護士は「働き手や労働組合が無効と主張せず、会社側が掲げた理由が世間で一人歩きすると、他の企業にも安易な解雇が広がりかねない」と警鐘を鳴らす。

 乗務員の行方はどうなるのか。会社側の対応は揺れている。国土交通省の9日の聞き取り調査には「約600人全員を解雇する考えはない」とする一方、「事業を縮小する方向で個別に従業員と話し合いを行っている」と説明したという。一方、同社役員は10日の朝日新聞の取材に「感染拡大が収束したら再雇用する」と会社として決めた事実はないとした上で、「売り上げがほとんどなくなり乗務員の感染リスクも高まっている。労使とも事業を続ける理由がない」と述べた。加藤勝信厚労相は10日の閣議後会見で、一般論とした上で「必要な指導などは行っていきたい」と話した。(田中美保、高橋尚之、滝沢卓)

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