ヘイト本、一方的に送りつけられ… まちの本屋の苦悩

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宮田裕介
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 「『ヘイト本』の陳列が目立つ」

 「欲しい新刊がないから、ネット書店で買おう」

 書店に行って、そんなことを思ったことはないだろうか。

 こうした問題は、出版流通の仕組みのひずみから生まれている、と指摘する本が出た。ジャーナリストの木村元彦(ゆきひこ)さんが著した、ノンフィクション『13坪の本屋の奇跡』(ころから)だ。書店員がヘイト本を置きたくないと思っても、取次から一方的に送られてくるという。どういうことなのか。

 本の舞台は、大阪メトロ谷町六丁目駅の近くにある隆祥館(りゅうしょうかん)書店(大阪市中央区)。店主は、元シンクロナイズド・スイミング(現アーティスティックスイミング)の元日本代表の経歴を持つ二村(ふたむら)知子さんだ。

 売り場はわずか13坪という小さな書店だが、なかなか売れないジャンルであるノンフィクション本を充実させ、本によっては日本で五指に入る販売実績を誇ることもあるという。

 なぜ、これほど売れるのか。二村さんの答えはこうだ。

 発売前の見本を熟読し、本の内容をしっかり把握する。店に来た客には声をかけて、客の顔と嗜好(しこう)を把握する。こうして客に合った本を薦めることができる。

 イベントにも力を入れる。作家と読者のパイプ役として、約10年前から開いてきたイベント「作家と読者の集い」は250回を超えた。

 「自分が選んだ本は、買ってくれる人を頭に浮かべながら仕入れている。だから、売れる。それが、この仕事の醍醐(だいご)味(み)です」

 『13坪の本屋の奇跡』は、こうした成功体験だけでなく、小さな書店と出版業界との闘いも描いている。

 二村さんの父で5年前に亡くなった善明さんは、「返品同日入帳」と呼ばれる問題に取り組んだ。小さな書店は、取次へ返品した際に受け取る返金に、大書店と比べて不公平なタイムラグが生じていたという。「まちの本屋」にとって死活問題だった。

 大手取次に対し取引条件の改善を求め、一定の成果をあげた。

 二村さんは現在、「ヘイト本」は棚に置かないと明言する。このことは、亡父と同様に、大手取次との闘いでもあるというのだ。

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 「見計らい配本」という出版…

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