競馬厩務員から漫画家に 「サラブレッドの幸せって?」

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滝坪潤一
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 競走馬の世話をする厩務員(きゅうむいん)から転身した異色の漫画家がいる。兵庫県尼崎市の田村正一(まさかず)さん(36)。サラブレッドが暮らす厩舎(きゅうしゃ)の2階に住み、午前1時に起きて働く生活から一転、今は夜中までペンを走らせる。夢はギャグ漫画の連載を描くことだ。

 同県伊丹市出身。競馬との出会いは小学校高学年で、兄が買ってきた競走馬育成ゲーム「ダービースタリオン」だった。ナリタブライアンが3冠馬になった1994年で、ファンとして夢中になった。

 23歳で求人情報誌の営業をしていた2007年、ウオッカが牝馬(ひんば)として64年ぶりに最高峰のレースの一つ、日本ダービーを勝つ。競馬の世界で働きたい思いを抑えきれず、馬に触れたこともなかったが会社を辞め、兵庫県の園田・姫路競馬の調教師が出していた厩務員の求人に応募した。

 仕事はきつかった。1人が4頭を受け持ち、1頭当たり2時間かけて順番に世話をする。調教がある朝は、午前1時から午前8時半まで休む暇はない。昼も夜もえさを作り、与える。馬に蹴られ、あばら骨が折れたこともあった。

 一方、小学生の頃から4コマ漫画を描くのも好きで、「漫画家になれたらいいな」とも思っていた。周りには内緒でギャグ漫画を描き始めた。

 休みの日に東京へ向かい、描いた漫画の原稿を手に出版社を3社ほど回ると、読み切り作品「ユメコン」が漫画誌「ヤングジャンプ」に掲載された。その後も、ギャグ漫画の新人賞「赤塚賞」で準入選となるなど順調だった。だが、連載を持つには至らない。

 ある漫画の原稿を持ち込んだ時のこと。「競馬場で働いているのなら、一度それを描いてみない?」。編集者にそう言われた。

 周りを見回すと、愛らしく個性的な馬たちがいた。9歳の牡(おす)は不機嫌になると首を上げ下げして人を振り落とそうとする。調教の時間になっても馬屋の部屋から出ない引きこもりの3歳馬。突然蹴りを入れてくるデビュー前の2歳馬……。

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 9歳の牡との別れは突然やっ…

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