「日本化」におびえる米国 金融政策は手詰まりなのか

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ワシントン=青山直篤
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経済インサイド

 米中貿易摩擦もいったん「ディール(取引)」に達し、株価が史上最高値を更新した米国経済。しかし株式市場が過熱する裏で、米国では「日本のような『停滞』に陥るのでは」という懸念がじわりと広がりつつある。様々な課題を抱えるとはいえ、底堅い成長を続ける米国がなぜ「日本化」を心配しているのか。

議長が直面する課題

 「私や私の同僚たちは、彼の模範から励ましを受けてきた」。昨年12月11日、米国の中央銀行、連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が、連邦公開市場委員会(FOMC)後の会見でまず語ったのは、かつてのFRB議長への弔辞だった。

 ポール・ボルカー氏。1970~80年代、「インフレ・ファイター」として華々しく活躍した、伝説的なFRB議長だ。FOMC直前の12月8日に死去し、ひとつの時代の終わりを印象づけた。パウエル氏は「ボルカー氏は、全ての米国人の利益になると信じた政策を遂行した」と悼んだ。

 FRBの政策のかじ取りは、米国経済はもちろん、世界経済も大きく動かす。79年に議長に就いたボルカー氏と、2018年に就任したパウエル氏。2人の金融政策上の課題はまったくベクトルが異なるが、「想定外」の事態に直面している点は似通う。

 ボルカー氏の就任時の70年代末、米国経済は不況に加え、オイルショックによる激しいインフレ(物価上昇)が重なり、「スタグフレーション」(不況下のインフレ)に見舞われた。不況下ではデフレになるのが当然だと考えられていた時代。ボルカー氏は批判を浴びながら金融引き締め策を進め、急激なインフレを抑え、米国経済を回復軌道に乗せた。

 一方、現職のパウエル氏が向き合うのは逆に、一向に加速しないインフレだ。現在の米国経済は、低い失業率の下で景気は堅調。しかし、モノの値段はあまり上がらず、物価上昇率は1%台半ば。最近はFRBが目標とする物価上昇率2%を下回り続けてきた。

 もちろん、日本のように物価上昇率が0%台半ばで、デフレに逆戻りするリスクにさらされているような状況に比べればマシだ。しかし、米国としては低調な物価上昇率が、「謎」だと議論を呼び始めている。

ゼロ金利政策の限界

 好景気で失業率が低いうえ、物価もそれほど上がらない。いいことずくめのようだが、必ずしもそうではない。

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 FRBのような中央銀行は…

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