50代女性の居場所探し 「ゼロになる恐怖」抱えた10年間

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古屋聡一

 20人ほどの参加者で女性は1人だった。

 富士通のグループ会社の部長だった西村美奈子さん(59)は、55歳の時に役職定年の対象者を集めた人事研修に参加した。

 役職定年後の待遇や生活設計についてのアドバイスなどがあった。しかし、専業主婦と暮らす男性社員を前提とした話が多く、西村さんには違和感があった。

 男性社員のほとんどは、将来について「できるだけ、会社にとどまりたい」と答えた。しかし、西村さんの思いは少し違った。

 〈いつかは必ず会社を去らなくてはいけなくなる。その後をどう生きるかを今から考えるべきではないか。その方が問題だ〉

 それは、40代後半からずっと抱えている不安の種だった。

「ゼロになってしまう」

 大学で数学を学び、83年に富士通に入社した。ソフトウェア開発、コンテンツビジネス、情報システム、マーケティングなど幅広い仕事を経験した。

 仕事は山あり、谷あり。面白いときもあれば、つらいときもあった。辞めようと思ったことも何度かあった。「きょうは会社に行くだけでいい」。そんな日もあったが、基本的に仕事は楽しく、やりがいや達成感があった。仕事は人生の大きな比重を占めていた。

 子育ても楽しかった。子どもが小さい頃、海外出張のときは、保育園で知り合った友人たちが助けてくれた。全員が働いているお母さんだった。曜日ごとに西村さんの子どもの面倒を見る担当を決めて、夜は富士通でエンジニアをしていた夫が迎えに行った。仕事で疲れても、子どもたちと遊んでいると気が晴れた。

 ただ、50代になり、恐怖感に似た不安が頭をもたげてきた。

 〈定年になって、会社を辞めることになれば、これまで全力で打ち込んできたものがゼロになってしまう……〉

「普通の人」のセカンドキャリアは

 異動するごとに目の前の仕事に全力で取り組んできたが、自分は「財務のプロ」でも、「人事のプロ」でもない。社外で通用するスキルを持っているとは思えなかった。

 職場で相談できる女性の先輩…

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