旅する石「WA ROCK」って何? 山間の小さな駅で

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星乃勇介
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 石に絵を描き、町中に置いたり交換したりして、人と人の輪を紡ぐ「WA ROCK(ワロック)」という遊びが広がり始めている。山形県内で発信源となったのは、山間を走る県北のローカル線の小さな駅。窓口は、旅人が置いていった「宝石」でいっぱいだ。

 10月上旬、JR陸羽東線・最上駅(山形県最上町)を訪ねた。駅の待合スペースでは、4人の女性が絵筆を握り、石に絵を描いていた。駅名標、紅葉、動物……灰色の無機質な小石が、あっという間に「アート」に生まれ変わる。

 山形県新庄市の女性(50)は同町出身で、週に2~3回描きに来るという。好きな絵柄は「昭和レトロ」と「温泉」。「この石が、誰かの手でどこかを旅すると思うとわくわくする」。十数個描き上げ、駅のカウンターに置かれたかごに入れた。

 ワロックは公園などで絵が描かれた石を探したり、隠したりする、西オーストラリア発祥の自然遊び。現地在住の日本人女性が2年ほど前、縁のあった秋田県北秋田市阿仁地域に持ち込んだのがきっかけで、国内にも広まった。「WA」は「Western Australia」の略だが、日本では人と人の「輪」の意味を込めたという。

 最上駅で始めたのは、駅の管理を受託する「まちプランニングもがみ」社員の沼沢彩夏(あやか)さん(28)だ。

 沼沢さんは今年3月、西隣の大堀駅(最上町)で東北新幹線が描かれた石を見つけた。裏返すと「WA ROCK AKITA(あきた)」の文字。ネットで調べると「半年前に置いた」との書き込みがあり、ワロックを知った。

 社長に伝えると「最上駅でもやってみたら?」。

 陸羽東線は奥羽山脈を横断し、新庄駅(山形県新庄市)と小牛田駅(宮城県美里町)を結ぶ全長94・1キロのローカル線。沿線には源義経一行が見つけたという伝説の瀬見温泉(山形県最上町)や、こけしで有名な鳴子温泉宮城県大崎市)があるが、マイカーに押されて乗客は減り気味で、最上駅も1日の乗車客が150人前後の小駅だ。利用は通学の学生が中心で、ほかはほとんどお年寄り。人口約8500人の町も過疎化が進む。

 駅や町のにぎわいにつながればと、沼沢さんは絵の具やラッカーを買い、駅内に絵を描く場所を設けた。

 自分でも描いてみた。四角い石から鉄道を連想し、同駅を通る気動車の車両を描いた。半日ほどかけて仕上げ、物陰に置いた。

 「誰が拾うかな?」。どきどきしていたが、お年寄りが「落ちてたっけよー」と持ってきた。何度置いても落とし物と間違われ、拾われて戻って来てしまう。

 そこで「交換所」を設けることに。描きためた石をかごに入れて「この石は旅をする石」「持ち帰りOK」「自分でも作って交換を。駅でも作れます」などと貼り紙をした。4月にSNSで発信すると、車や列車で少しずつファンがやってくるようになった。

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 訪れた人が石に思い思いの絵…

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