南シナ海、薄れぬ中国の影 進出否定の判決を封印の国も

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ダバオ=守真弓 北京=冨名腰隆 ナトゥナ諸島=野上英文 ワシントン=園田耕司
【動画】南シナ海の南端インドネシア・ナトゥナ諸島 密漁船に地元漁民の反応は=野上英文撮影
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 多くの船が行き交う南シナ海は、各国の利害と思惑がぶつかる舞台でもある。経済力と軍事力にまさる中国によるこの海域への進出に、国際法廷が全面否定の判決を突きつけてから2年。中国の動きも、それを受けた国々の対応も複雑さを増している。

 「高官も地方官僚も建設業者も中国から出張してくる。招待状を書いたり、接待したりと忙しい」

 マニラに本部を置くフィリピン最大の華人団体の幹部は言う。頻繁な来訪には中国政府の後押しがある。「中国の建設業者はここで受注しないと中国で事業を受注しにくくなると聞いた」

 ドゥテルテ氏は大統領就任後の2016年10月、訪中して習近平(シーチンピン)国家主席と会談。巨額の経済支援を持ちかけられると、中国と対立したアキノ前政権の方針を翻し、南シナ海問題の仲裁裁判判決を封印した。国家経済開発庁によると、灌漑(かんがい)用水や鉄道など中国が出資する大規模事業が始まっている。中国からの観光客も急増している。

 ドゥテルテ氏が長く市長を務めたミンダナオ島ダバオでは、公立ボルトン小学校で最新AV機器を備えた新校舎の建設が進む。元比大使の宋濤・中国共産党対外連絡部長が昨年、同市を訪れて寄付を表明した60万ドル(約6700万円)が使われた。

 「中国共産党の寄付と聞いて最初は『なぜ』とぎょっとした。でも今は本当に感謝している」とアグネス・タトイ教務主任(46)。

 ダバオは年内に中国の総領事館もできる。すでに着任した総領事の黎林氏は言う。「今後も様々な支援をしたい。ドゥテルテ政権が南シナ海問題を棚上げするという共通認識を持っているからこそできることだ」

 中国海南島の「ボアオ・アジアフォーラム」には今年、ドゥテルテ大統領が招かれた。習主席は「南シナ海問題を適切に処理し、友好の海にしたい」と表明した。6月下旬には、湖南省長沙で東南アジア諸国連合と南シナ海での活動を規制する「行動規範」を議論、対話姿勢を示した。

 中国外交筋は「当事国が対話のテーブルにつけば、仲裁裁判所の判決も中国脅威論も意味を失う。習氏が掲げる『世界一流の海洋強国』づくりのための時間も稼げる」と狙いを語る。

 判決後、中国は国際社会に対して自らの主張を強く訴えなくなったようにみえる。だが動きが止まったわけではない。

 4月以降、岩礁を埋め立てた人工島では、電波妨害装置や対艦巡航ミサイル、地対空ミサイルなどが配備されたと米メディアが伝えた。5月には西沙諸島のウッディ島(永興島)で中国軍戦略爆撃機が初めて離着陸訓練を実施した。(ダバオ=守真弓、北京=冨名腰隆

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