赤身うまけりゃトロもうまい マグロ仲買と飲んで語って

向井宏樹
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食のプロと一杯@寿司割烹 豊魚(神奈川県三浦市

 突然ですが、マグロはお好きですか? 東京には日本の台所・築地市場がありますが、首都圏でマグロが揚がる漁港と言えばここ、神奈川県三浦市の三崎港。「三崎のまぐろ」として知られ、その取引や流通を支えるスペシャリストがいます。市場で働く人たちは何となく気性が荒そうなイメージがありますが、酒を酌み交わせば少しは仲良くなれるかも。マグロを知り尽くしたプロからその奥深さを引きだそうと誘ってみました。

 品川駅から三浦海岸駅まで電車で1時間強。さらに10分弱バスに揺られた先に、指定された店「寿司割烹 豊魚(ほうぎょ)」があった。紹介してくれたのは、マグロ卸売会社の社長、篠田和也さん(78)。自身も仲買人の大ベテランで、50年近いキャリアを持つ。

 まずは一緒に生ビール(500円)を注文。「はいじゃぁ、あなたの健康とこれからの人生に乾杯」と篠田さん。河岸の男の貫禄を漂わせつつも、どこか親戚のような親近感がある。酒飲み同士、波長が合うのかなと考えていると、篠田さんは「トロを刺し身で。あとなんか、三崎のものを」。さすが常連、メニューも見ずにさっさとオーダーを済ませた。

 毎日マグロを扱っていても食べたくなるものだろうか。「どの船の、どの漁場のものなのか、味が気になるだろう?」。三崎港は歴史ある遠洋漁業の基地で世界各地で漁獲したマグロが集まる。捕れた海域や時期が違えば、品質も変わってくる。洋上での漁獲状況や市場価格に目を配りながらマグロを買い付け、消費者へと安定流通させるのが篠田さんの仕事だ。

マグロ、どう目利き?

 お待ちかねの刺し身の盛り合わせが登場した。「マグロはワサビ、アジはショウガで。オーケイ?」。なぜか時折英語混じりの篠田さん。赤身はさわやかな酸味があり、アジの身はプリプリ。「すし屋ではまず赤身。いい赤身を出す店はトロもおいしい」。なるほど。では、スーパーではどんなマグロを狙えばいいのか。「一番は色が鮮明で輝きがあるもの。目で食する、なんて言われる通り、見た目がおいしそうなものは案外、外れない」。プロがコツを伝授してくれた。

 「ここは日本酒もいいものを置いてあるぞ」。メニューには東北や新潟を中心に35種類の銘柄が並んでいる。「おれはいつも、浦霞(うらかすみ)だ」。宮城県は塩釜が生んだ銘酒を飲みながら、話題はマグロを取り巻く環境に及んだ。

ぼやきも漏れる

 三崎港のマグロは冷凍のメバチマグロが中心だ。しかし最近は思うように魚が捕れないという。「俺らの商売は海が根幹なんだ。しかし、このところ水温が不安定で、潮流にも異変を感じる」。それでも「欠品は許されない」。ハレの日になればマグロの需要はぐっと伸びる。在庫状況を頭にたたき込みながら、今が買い時か判断しないといけないが、「そういう感性を持った若い衆がなかなか育たなくてね」。酒をあおると、ぼやきが漏れた。

 最近ではアジア各国のマグロ漁船が台頭し、日本のマグロ漁が岐路に立たされていると感じていると言う。ただ、三崎マグロの仲買人としての自負はある。「鮮度のいいマグロには自然の甘みがある。世界の海を回遊してきた天然物のおいしさを味わって欲しい」

 日本酒を飲むこと2人で8合近く。さすがに酒が回ってきたが、「もう一杯だけいくか。浦霞だな」と篠田さん。「人生は邂逅(かいこう)だ。まぁ、大切にしよう」。海のような広い心を感じた。(向井宏樹)

肉質・鮮度で見極め

 午前8時ごろ、三崎魚市場のマグロの入札が始まる。所狭しと冷凍マグロが並べられ、仲買人たちが切り取られた尾の身を手かぎで引っかけながら、肉質や鮮度を見極めている。

 篠田さんも入札がある日は、市場に顔を出す。「マグロの価格がこれから上がるのか、下がるのか。その雰囲気は市場にある」。1匹ずつの品定めは部下たちに任せているが、「マグロの姿や捕れた漁場を見ればだいたいの見当はつくよ」。

 買い付けの際、何を基準に判断しているのか。「まず姿。尾っぽの部分までふっくらしているかどうか。尾の切れ目からは身の色合いや水分の含有率、脂の乗り具合も分かる」と篠田さん。捕れた海域や凍結温度も大切といい、尾の部分を見れば、そのマグロが生きたまま水揚げされたのかどうかも分かるという。

プロが教えるマグロ解凍のコツ

 三崎魚市場では冷凍のマグロを主に扱っている。おいしく刺し身で食べる解凍方法を篠田さんに聞いた。

・冷凍マグロの柵は水道水で表面を洗う。よりおいしく食べたい場合は塩水で。「そうすることで、色みがそのまま冷凍前の状態に戻る。あまりやり過ぎるとしょっぱくなるので注意」と篠田さん

・キッチンペーパーなどで水分をとる

・皿の上に置きラップをかけて冷蔵庫で自然解凍する。大きさにもよるが5時間ほどで軟らかくなる

・刺し身に切り分ける場合は、軟らかくなりすぎない9割ぐらい解けた状態がベター

     ◇

●寿司割烹 豊魚(電話046・889・1343)

住所:神奈川県三浦市初声町下宮田50の3

営業時間:11:00~21:00(ラストオーダー 20:30)

定休日:年中無休 ※元旦は休業

平均予算:3千円

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