夏目漱石「吾輩は猫である」147

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      九

 主人は痘痕(あばた)面(づら)である。御維新前(ごいっしんまえ)はあばたも大分流行(はや)ったものだそうだが日英同盟の今日から見ると、こんな顔は聊(いささ)か時候後(おく)れの感がある。あばたの衰退は人口の増殖と反比例して近き将来には全くその迹(あと)を絶つに至るだろうとは医学上の統計から精密に割り出されたる結論であって、吾輩の如き猫といえども毫(ごう)も疑(うたがい)を挟(さしはさ)む余地のないほどの名論である。現今地球上にあばたっ面を有して生息している人間は何人位あるか知らんが、吾輩が交際の区域内において打算して見ると、猫には一匹もない。人間にはたった一人ある。しかしてその一人が即ち主人である。甚(はなは)だ気の毒である。

 吾輩は主人の顔を見る度(た…

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