夏目漱石「それから」(第六十三回)十一の七

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 代助は風を恐れて鳥打帽(とりうちぼう)を被(かぶ)っていた。風は漸(ようや)く歇(や)んで、強い日が雲の隙間(すきま)から頭の上を照らした。先へ行く梅子と縫子は傘を広げた。代助は時々手の甲を額(ひたい)の前に翳(かざ)した。

 芝居の中では、嫂も縫子も非常に熱心な観客(けんぶつ)であった。代助は二返目の所為(せい)といい、この三(さん)、四日来(よっからい)の脳の状態からといい、そう一図に舞台ばかりに気を取られている訳にも行かなかった。絶えず精神に重苦しい暑(あつさ)を感ずるので、しばしば団扇(うちわ)を手にして、風を襟(えり)から頭へ送っていた。

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 幕の合間に縫子が代助の方を…

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