(社説)日米首脳会談 対中、主体的な戦略を

社説

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 米国との緊密な連携は重要だが、対中戦略の一角を担うだけでは、日本の平和と安全を守りきることはできまい。台頭する隣国にどう向き合うのか。自らの主体的な戦略を描いたうえで、米国をはじめとする関係国と協働し、対立をエスカレートさせないことを最優先に取り組むべきだ。

 菅首相とバイデン大統領との首脳会談が終わった。共同声明では、尖閣諸島を念頭に、東シナ海での現状変更の試みや、南シナ海での強引な海洋進出に「反対」するなど、中国への厳しい姿勢を前面に打ち出した。

 そもそもバイデン氏が、対面で会う初の外国首脳に首相を選んだのは、「唯一の競争相手」と位置づける中国に対抗するうえで、日本の役割を極めて重視しているからだ。高速通信規格「5G」の普及など、先端技術分野での協力に合意したのも、中国との競争が念頭にある。

 日本にとっても、尖閣周辺での活動を活発化させる中国に対応するには、米国の後ろ盾が欠かせない。ただ、中国は隣国であり、経済の相互依存関係も深い。米国と完全に同じ立ち位置とはいかない。

 中国が台湾周辺での軍事活動を強め、片やバイデン政権が台湾支援の姿勢を鮮明にするなか、共同声明は「台湾海峡の平和と安定の重要性」に言及した。中国との国交正常化以降初めて、日米首脳間の文書に「台湾」が明記された意味は重い。

 台湾有事が仮に現実となれば、日本は人ごとではいられない。安保法が定める「重要影響事態」として米軍への後方支援を求められる可能性が高い。

 共同声明には「中国との率直な対話の重要性」が盛り込まれ、台湾をめぐっても「両岸問題の平和的解決を促す」と付記された。言葉だけに終わらせてはいけない。日本が果たすべき役割は、米中双方に自制を求め、武力紛争を回避するための外交努力にほかならない。

 両首脳は、自由、民主主義、人権などの普遍的価値の共有を強調し、気候変動新型コロナ対策に共同で対処する方針を明確にした。香港や新疆ウイグル自治区の人権状況に「深刻な懸念」を示し、ミャンマー国軍に市民への暴力の即時停止を求めたのは当然だ。一方で、沖縄の民意を無視した辺野古移設が、「唯一の解決策」と確認されたことには納得がいかない。

 既存の秩序に挑む中国の行動を抑えつつ、対話を通じて健全な共存をめざす。地球規模の課題に対しては、中国も巻き込みながら解決を主導する。国際社会の「公共財」としての日米同盟の真価はそこにあると、両首脳は深く思いを致してほしい。

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