6月、日本医学会の医学用語を考えるシンポジウムが東京都内で開かれました。患者の側に立った治療をするためには患者と医療従事者の十分なコミュニケーションが必要で、分かりやすい用語で会話することが医療現場の重要な課題の一つになっています。 今回のシンポジウムでは、医師が患者・家族に十分に説明し、一緒に治療方針を考えていく「インフォームド・コンセント」という潮流を受けて、医師だけではなく言語学・日本語研究者やマスコミ、患者側などからも発言。医学用語の難しさ、分かりにくさに加えて、患者や家族を傷つけたり差別につながったりする用語・表現についても、工夫や改善方法が議論されました。

■わかりにくい専門用語


 日本医学会の医学用語管理委員会委員で長崎大学教授の森内浩幸さんは、小児科医の立場から、「検温」や「抜糸」など、語彙(ごい)の少ない子どもにとって聞きなれない言葉や、「目薬をさすよ」と言われて目に注射されるのではと怖がった子の例などを挙げ、子どもの想像力に近づいて考えることの重要性を指摘しました。

 読売新聞東京本社紙面審査委員会専任部長で、日本新聞協会新聞用語懇談会委員でもある関根健一さんは、口の中を言う「口腔(こうこう)」が医学の世界では「こうくう」と読まれる紛らわしさなどを紹介し、「新聞が目ざす正確で分かりやすい文章は、分かりにくい専門用語との闘いと言ってもいいかもしれない」とする一方、「専門用語をただ日常語で表現するだけではなく、正確さが損なわれないような工夫をすることで、新聞は専門家と非専門家の懸け橋になれる」と話しました。

門田 耕作(もんだ・こうさく)

1957年、兵庫県生まれ。84年、活版時代の大阪・校閲部入社。用語幹事として「朝日新聞の用語の手引」(2015年3月刊)を編集。現在、東京で用語担当。差別・人権問題の紹介にも取り組む。日本酒と焼きそば(古里ではそば焼きと言った)が好き。