〈仕事のビタミン〉鈴木弘治・高島屋社長:12

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鈴木弘治(すずき・こうじ)1945年生まれ、神奈川県出身。慶応大を卒業後、68年高島屋入社。常務、副社長などを経て03年1月から社長。日本百貨店協会会長。麻生健撮影

■百貨店の未来

 連載の締めくくりに、百貨店の未来について書きたいと思います。

 百貨店の経営はこの10年ほど、ずっと厳しい環境が続いてきました。多くの店舗閉鎖も経験しました。ではこのまま衰退するかというと、私はそうは思っていません。買い物をする時の選択肢として、しっかりとした位置を占め続けていくだろうと思います。

 人材という意味で、百貨店人には、それなりの長所があります。店頭におけるサービス力、例えば固定客をしっかり把握しているといった面では、他の小売り業態にない強みがあるでしょう。

 成長していく余地もあると考えています。百貨店各社は方法に違いはあれど、こぞってアジア進出を掲げています。高島屋はシンガポールに拠点があり、上海、ベトナムへの出店準備も進んでいます。このポテンシャルは同業の中では一番高いのではないでしょうか。

 二子玉川という街があります。ここは、玉川高島屋とともに成長してきたおしゃれな街、という評価を頂いています。店舗だけをつくるのではなく、街の界隈そのものをつくって、その核に百貨店を位置づけるというノウハウは、これからも重要になるでしょう。高島屋東京店がある日本橋は、まさにこの考えで再開発に取り組もうと考えています。海外の店舗でも、街全体を発展させていく高島屋の力を発揮できるはずです。

 ただ、国内の百貨店業界が現在の規模で、そのままもつとは思っていません。小売市場が少子高齢化で縮むという前提があります。その中で、変わっていく消費者のライフスタイルをどう創造していくのか、業界の経営者はみんな考えているわけです。

 近年、規模のメリットを求めて大手百貨店が経営統合する例が相次ぎました。三越伊勢丹ホールディングスとJフロントリテイリング、そごう・西武が誕生しました。色んな評価はあるんですが、私は三者三様にうまくいっていると思っています。それぞれの企業の強みが弱点をうまく補って、これからの成長に向けて土台を築きつつあります。業界全体にとって、非常に良かったと思います。

 高島屋もH2Oリテイリングとの統合を検討しましたが、リーマン・ショックもあって撤回しました。規模のメリットを求めることはもちろん必要なのですが、それだけが唯一の手段ではないと感じました。国内の統合に力を注ぐより、アジアで規模の拡大を求めた方が、やりやすいのではないかという判断もありました。

 各社がこの時代にどう対応するかという考え方、方策はそれぞれ異なります。それが、百貨店企業の個性となります。その個性を、消費者が使い分ければいいんですよね。そうすることで、「百貨店が同質化していた」という批判にこたえて、消費者の支持を得られる方向に業界としては動いていくんじゃないでしょうか。

 高島屋は創業180年です。同業にはその倍以上の歴史を持っている会社もあります。それは単に長いということじゃなくて、時代時代に合わせて進化してきた積み重ねの歴史です。ひいき目もありますが、これだけの長い間、変化に対応しきれて来たとも言えます。根底にそういう、したたかに生き残っていく風土があるんじゃないかと思うんです。

 今回は業界全体について多く触れました。第1回でも述べましたが、業界が沈んで自分の所だけが浮かび上がることを考えてはいけません。百貨店は消費者に、ある種の良いイメージを持ってもらって成り立つ業種です。競争は競争として、全体で前へ進んで行きたいと考えています。

 連載の始まりは、まだ震災後の混乱が残る中でしたが、はや歳末商戦を迎えています。今後も、皆さんに合わせた商品を提案していきたいと思っております。ご愛読、誠にありがとうございました。

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