(社説)陸自靖国参拝 旧軍との「断絶」どこへ

社説

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 憲法が定める「政教分離」の原則に抵触するというだけではない。侵略戦争と植民地支配という戦前の「負の歴史」への反省を踏まえ、平和憲法の下で新たに組織された、自衛隊の原点が風化しているのではないかと疑わせる振る舞いではないか。

 陸上幕僚監部のナンバー2である小林弘樹陸幕副長(陸将)ら数十人が、靖国神社に参拝したことが明らかになった。小林氏がトップを務める陸上自衛隊航空事故調査委員会に所属する自衛官や事務官らで、年始にあたっての「航空機安全祈願」として「実施計画」を策定したうえでの参拝だった。

 参加者は時間休をとって勤務を離れ、私服で行動し、私費で玉串料を納めたというが、公務の延長上の組織的な参拝と見られて当然だろう。小林氏を含む一部の参加者は、能登半島地震への対応で速やかに職場に戻れるようにするためだとして、公用車を利用してもいた。

 憲法は何人(なんぴと)に対しても「信教の自由」を保障しており、自衛隊員が一国民として神社仏閣に参拝することに問題はない。しかし、政教分離などの観点から、防衛省自身が事務次官通達などで、「部隊としての参拝」や「隊員への参加の強制」を禁じている。

 この規律に違反する疑いがあるとして、防衛省が調査に乗り出したのは当然だ。毎年の恒例であったのか、隊員の内心の自由に反して、事実上参加を迫るようなことはなかったか、きちんと調べて明らかにしてほしい。

 靖国神社は戦前、軍国主義の精神的支柱となった国家神道の中心的施設だ。東京裁判戦争責任を問われたA級戦犯14人が合祀(ごうし)されてもいる。朝日新聞は、時の首相や閣僚ら政治指導者の参拝を、戦争への反省を忘れ、過去の正当化につながるものだとして厳しく批判してきた。

 自衛隊の幹部や部隊による組織的な参拝にも同様の懸念を持たざるをえない。帝国陸海軍が敗戦で解体された後、民主主義体制の下で再出発したのが自衛隊である。人脈や文化など、旧軍の伝統との継続性も指摘されるが、基本的な理念、役割は、戦前と「断絶」しているはずだし、そうあらねばならない。

 15年には、さいたま市にある陸自の化学学校が、「精神教育」の一部として、所属隊員を靖国神社に参拝させたとして、関係者が通達違反で処分される事案があった。

 この機会に、陸自にとどまらず、自衛隊全体として、靖国神社との関係を徹底的に点検すべきだ。

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