(社説)ハンセン病問題 取り組みは道半ばだ

社説

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 ハンセン病の元患者に対する隔離政策で、家族も差別や偏見にさらされてきた。そう指摘して国の責任を認めた6月の熊本地裁判決を受け、元患者の家族に補償金を支給するための法案の骨子がまとまった。

 親子と配偶者は1人あたり180万円で、きょうだいのほか元患者と同居していたおいやめい、孫らが130万円。裁判で請求を退けられた人や裁判に加わらなかった人にも支払う。金額、対象とも判決が命じた賠償より拡充した。超党派の議員立法でいまの臨時国会に法案を出し、成立を目指す。

 補償金は家族本人からの請求で支給する。裁判で原告560人余の大半が匿名だったことを踏まえると、プライバシーへの配慮が欠かせない。支給対象かどうかは戸籍などの書類で確認し、それが難しい場合は有識者からなる認定審査会で判断する。関係者の証言などに基づいて柔軟に認めることが肝要だ。

 1996年まで約90年間も続けた隔離政策について、国が01年に元患者への謝罪と補償に踏み切ってから18年。ようやく家族にも償うことになったが、差別と偏見をなくす取り組みはなお道半ばである。

 法案の前文では、国会と政府の反省の念とおわびを明示することになった。偏見と差別を国民とともに根絶する決意、責任をもって問題に誠実に対応していくことも記す。

 これまでシンポジウムを開いたり学校で冊子を配布したりしてきたが、元患者と家族らは不十分だとしている。どんな試みが有効か、国会での法案審議に合わせて議論するべきだ。

 今月初めには、裁判の原告側と元患者、厚生労働、文部科学、法務の各省で作る協議の場が立ち上がった。様々な世代、分野の有識者の意見も聞きながら話し合いを重ねてほしい。元患者を隔離してきた各地の療養所は、資料館を整えながら地域との交流を進め、施設の保存・活用策を模索している所もある。人権について考える場としていくための具体策なども検討課題になるだろう。

 熊本地裁判決は、家族が直面してきた就学や就労の拒否、村八分、結婚差別などを「人生被害」と指摘した。原告団長の林力さん(95)は元患者の多くが既に亡くなっていることに触れつつ、「(補償金の)180万円であがないましたと合点するものは誰もいない」と述べた。

 かつて病気の父親と向き合えず、その存在を伏せてきた。偏見に苦しみ抜いた林さんの言葉をかみしめたい。元患者と家族の心の傷を癒やし、その関係を取り戻せるよう、社会全体での取り組みを止めてはならない。

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