別世界を求める心理、突き詰める 中村文則さん連載小説「カード師」10月1日から

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 10月1日から、中村文則さんの新しい連載小説「カード師」が始まる。トランプやカードが鍵となる物語には、現代社会のゆがみや息苦しさが投影される。

 主人公の男は、占いを信じていない占い師。トランプやタロットカードを巧みに扱い、相手の望むような未来を告げる。「味気ない現実だけを見て生きていくのはしんどい。誰もが別の世界を求めたいと願う」。別の世界には、たとえば宗教や運命、縁などを信じるだけでなく、物語やスマホを見ることまで含まれる。「良い面も危険な面もある。息苦しさの果てに人々が求めるもう一つの世界の危険性まで書けたら」

 危険な面とは。「一例として」と前置きして「ナチス的なもの」と続ける。「大の大人がそろいの制服を着て、片腕を上げる同じポーズをする。幼稚なファンタジーのよう。人間の奥底にある暗い願望が虚構となり、奇妙な空間となって、現実世界に出現した結果と見ることもできる」

 歴史の転換期にはオカルトが流行した。西欧ならフランス革命の直前、日本なら高度成長期。ユリ・ゲラーのスプーン曲げに夢中になり、ノストラダムスの大予言に大騒ぎしていた。「古代ギリシャまでさかのぼり、何かを求めたい人の性(さが)を考え、社会とオカルトの関係も視野に入れたい」

 もともと手品に関心があったという。「相手をだますこと、注意をそらすことは、人間の精神に深く関わります。そういうところに興味があるのは、今でもですが、10代の頃の生きづらかった名残でしょうか」

 連載前には手品ショップに行き、現在カードマジックを練習中。実際に手を動かすのは今回に限らない。『掏摸〈スリ〉』ではスリの手さばきを、『その先の道に消える』では緊縛の縄さばきを練習した。異色の特技ばかりだが、手先に関わる点は共通する。「物や他者との最初の接触に興味があります。触れる瞬間の緊張感もある」

 プロットは作らない。「そのとき思いついた一番面白いシーンから広げていく。自分でもどうなるかわからない。その方が自分の能力を超えられるし、そこには必ず意味がある」

 挿絵は目黒ケイさんが担当する。米・ニューヨーク在住で、世界的に活躍するイラストレーター・グラフィックデザイナーだ。(中村真理子)

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