(社説)停電の教訓 復旧がゴールではない

社説

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 千葉県内を中心とした大規模停電は、9日の台風15号上陸から2週間たっても2千戸以上に電気が届かぬ事態が続いた。

 食事や入浴すら思うにまかせない苦労はいかばかりか。東京電力は一刻も早く完全復旧を果たしてほしい。

 停電が広がり長引いた事態の検証は当然すべきだが、すでに課題や教訓が浮かんでいる。

 大規模停電の主因は、2基の鉄塔と推定2千本の電柱の倒壊・損傷だ。秒速40メートルの風に耐える設計なのに対し、57・5メートルの最大瞬間風速が千葉県で観測された。この連休にも台風17号の影響で九州地方などに停電が相次いだ。電柱の被害も出た。

 倒木や飛来物の影響があるとはいえ、想定強度の見直しを議論すべきではないか。沖縄電力は台風が多い地域性を踏まえ、鉄塔は風速60メートルに耐える設計にしている。鉄塔は全国に20万基超、電柱は2千万本超ある。電線の地中化による「無電柱化」とあわせ、コストや優先順位を精査したうえで、強度を高める手立てが求められる。

 スムーズな復旧を実現する策も練っておきたい。

 まずは状況の把握である。東電は当初、3日間での復旧を目ざすと表明したが、後ずれを重ねて混乱した。状況がつかみきれぬ「過去に例のない被害」からの復旧なのに、過去の経験をもとに対応したからだ。近づくのが難しい場所ではドローンを積極的に使うなど、情報収集の手段を広げてほしい。情報発信で正確さと速さのバランスが重要なのは言うまでもない。

 千葉県でも、関西地方に大きな被害が出た昨年の台風21号でも、多数の倒木が停電につながり、通行を妨げて復旧の足かせになった。電力会社の対応にも限界がある。関西電力は今春、和歌山県と協定を結び、倒木の伐採や土砂の除去作業で柔軟に役割分担できるようにした。他の自治体にも広げたいという。参考になる取り組みだ。

 政府の有識者会議ではかねて、電力施設が被災した場合の復旧コストの負担の在り方が検討されている。他社への応援要請をしやすくなるよう、復旧に要した費用を大手電力が出し合う案もある。だれがどう負担すべきなのか、議論を深める必要がある。

 被災地への支援では、電源車の活用に課題が見つかった。稼働させるのに必要な有資格者の作業員が、人繰りの不備でそろわないケースがあり、フル活用できなかった。電源車として使える電気自動車や小型発電機の利用も拡大したい。

 「安定供給が使命」という電力会社の言葉が試されている。復旧はゴールではない。

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