(社説)羽田新ルート 住民の懸念を忘れずに

社説

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 東京・羽田空港での発着に使う新しい飛行ルートを政府が決めた。東京五輪を前に来春から都心の低空を旅客機が飛ぶ。

 新ルートの設定は、井桁のように配された4本の滑走路の運用の幅を広げるためだ。1日約50便を増便でき、すべてを国際線に割り当てるという。

 来年には4千万人を目ざす訪日外国人の受け入れ能力を拡大させる狙いだが、地元住民には懸念や不安が残る。騒音の下での生活を余儀なくされ、航空機からの落下物の確認は全国で年に数件とはいえ、機体のパネルや金属片が車や建物を損傷させた例があるからだ。

 どんな対策をとるのか、政府や航空業界は住民に対し、丁寧に説明を続ける必要がある。

 着陸用の新ルートでは、新宿駅周辺の高度が約1千メートル。そこから南下し、品川区の大井あたりでは東京タワー(333メートル)ほどの高さまで降下して滑走路に向かう。

 都心の低空を通るのは、南風が吹く日の午後の3時間だけだが、その間は数分に1機のペースで内外の旅客機が上空を飛ぶ。「騒々しい街頭」なみの音がすると見込まれている。

 騒音を抑えるため、政府は飛行高度を上げ、滑走路への進入角度を通常より急にする異例の対応をとる。低騒音機の導入を促す着陸料の優遇措置も拡大する。操縦士の十分な訓練、部品などの落下防止策の徹底が必要なのは言うまでもない。

 新ルートの設定には、米軍との合意が必要だった。米側が管轄する「横田空域」を通過する場面が出てくるからだ。今回の増便で羽田の発着枠は年50万回に近づくが、もう増便の余地はないとされる。

 一方で、成田空港は3本目の滑走路をつくる計画を進めている。両空港あわせて年100万回の発着態勢が視野に入る。ロンドンやニューヨークに匹敵する規模である。

 羽田は国内、成田は国際という、かつてのすみ分けは崩れている。様々な国や地域をつなぐ「ハブ空港」の地位をめぐるソウルなどとの競争は激化しており、内外の路線の組み合わせや格安航空の受け入れなど、2空港一体での最適な運用をあらためて探らねばならない。

 ただし、利便性の追求は、地域住民の暮らしに十分配慮することが大前提だ。羽田の現行ルートで多くの便が通る千葉県からは、新ルートの採用に対し「首都圏での騒音共有の第一歩だ」との声が出た。羽田に限らず、航空機の運航や空港の運営は、懸念や不安をのみ込まざるを得ない人がいて成り立っている。そのことを、関係者は肝に銘じるべきだ。

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