第1回M&A仲介で事業承継、老舗洋菓子店は8カ月で閉店に追い込まれた

有料記事M&A仲介の罠

藤田知也

M&A仲介の罠

 国が積極的に推進している中小企業のM&A仲介。多くの仲介業者が業績を躍進させている一方で、その現場では目的とはかけ離れた事態が起きていました。

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 都内で洋菓子店を営んでいた男性経営者(65)は昨年4月4日、M&A仲介業者に紹介された数人の男女と向き合っていた。会社の譲渡を決めるための面談だ。

 場所は新宿駅西口にあるレンタルオフィスの一角。本来ならこの場で、買い手候補による「値踏み」がされるはずだった。

 ところが、質問はほとんどなく、「借り入れの説明は?」と水を向けても、きょとんとしている。事業経験があるのかな、と不安がよぎる。

 いや、お金によほど余裕があるか、店舗の立地を気に入った可能性もある。「人は見た目ではわからない」とも自分に言い聞かせた。「早く店を手放したい」という気持ちでせいていた。

 株式譲渡の契約は4月17日。同じ場所で淡々と書類に署名し、判を押し合った。ネットバンキングで譲渡額の100万円が振り込まれたのを確認し、会社の通帳や銀行印などを手渡した。「よろしくお願いします」と言葉を交わし、レンタルオフィスを出た。

 これから起きるトラブルを、まだ知る由もなかった。

外務省内にも出店する老舗喫茶

 創業は1973年。都内の百…

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