すべてのイヌはニホンオオカミの祖先から誕生? 遺伝情報で迫る起源

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小林哲
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 絶滅したニホンオオカミは、ゲノム(全遺伝情報)解析から、オオカミの中でイヌに最も近い種だったことがわかった。日本犬などには今も遺伝子の一部が受け継がれていることも判明し、すべてのイヌの起源は大陸にいたニホンオオカミの祖先にさかのぼる可能性があるという。

 ペットや猟犬として人間とともに行動し、品種改良が繰り返されてきたイヌの起源は複雑だ。これまでも中東や中央アジア、欧州など様々な説が提唱されてきた。

 新たに解読されたニホンオオカミのゲノムは、骨格などからはわからなかったイヌとの関係に迫る証拠の一つで、論争に一石を投じそうだ。総合研究大学院大や岐阜大などの研究チームが科学誌ネイチャーコミュニケーションズに論文(https://doi.org/10.1038/s41467-024-46124-y別ウインドウで開きます)を発表した。

日本犬に残るニホンオオカミの遺伝子

 論文によると、国内に残る江戸時代明治時代のニホンオオカミ6標本に加え、オランダドイツの博物館に保管されていた3頭の計9頭の標本からDNAを抽出した。そのうち3頭については、ほぼ全ての配列を解読することに成功した。さらに別のチームが解読していたニホンオオカミやイヌ、ハイイロオオカミなど100頭分のデータを加えて遺伝的な近さから系統関係を割り出した。

 その結果、ニホンオオカミの祖先は2万~4万年前の東アジアにいたハイイロオオカミの仲間から分かれて誕生し、その後にイヌの祖先となる集団がニホンオオカミの祖先から枝分かれしたことが判明した。

 また、当時のイヌの祖先とニホンオオカミとの間で交雑があったこともわかった。ニホンオオカミの遺伝子の一部は、東アジアなどにいるイヌに今も受け継がれており、その割合は日本犬(紀州犬秋田犬、柴犬(シバイヌ))で2~4%に達していた。最も多く影響を受けていたのは、東アジアの古代イヌをルーツにもつオーストラリアにいるディンゴやニューギニアの野犬で最大5.5%だったという。

 今後、東アジアの在来犬種や古代イヌ、ニホンオオカミのゲノム解析をさらに進めることで、イヌの起源により詳しく迫れるはずだという。一方、現代のほとんどの洋犬には、ニホンオオカミの遺伝子は残っていないことも判明した。品種改良で誕生した犬種が多く飼われるようになり、ニホンオオカミの影響を多く受けていた在来種が駆逐されてしまったためと研究チームはみている。

 チームを率いた総研大の寺井洋平准教授は「ニホンオオカミがオオカミの仲間の中で最もイヌに近いという結果は予想しておらず、イヌの東アジア起源説を裏付けるような成果が得られたのは幸運だった。日本列島が大陸から離れた島国で、古い系統が残りやすい地理的な特徴のおかげだろう。絶滅したオオカミのゲノムをここまで大規模に解読した分析はほかになく、イヌの進化の歴史を塗り替える価値があると考えている」と話している。

後半では、海外の研究者の評価や「ヤマイヌ」と呼ばれたシーボルト標本の真相について紹介します。

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