人口減少地域を襲った能登地震 持続可能な社会とは 宇野重規さん

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論壇時評 宇野重規・政治学者

 能登半島巨大地震が襲ったのは年明け早々、1月1日の午後4時10分であった。家屋の倒壊や火災、津波により死者が200人を超えるなど、地震は甚大な被害をもたらした。しかも、被災した地区の半数で65歳以上の人の割合が5割を超えている。災害が襲ったのは、まさにそうした人口減少地域であった。自然災害と人口減少のダブルパンチを受ける被災地の一日も早い復旧・復興を願うばかりだ。

 近現代史研究の辻田真佐憲は、奥能登の歴史や文化の持つ意義を説く(〈1〉)。かつて歴史学者の網野善彦は、伝統的に日本が農業国であったとする通説を覆し、列島をつなぐ漁業や海運による海民のネットワークに着目した。辻田は、網野が着想を得たのが奥能登であったとし、この地が江戸時代に日本海交易の要衝であったことを強調する。今回の地震についても、インフラの復旧は無駄であり、住民を移住させるべきであるとする議論を批判し、より長期的な視野から地域のもつ豊かさを考えるべきだとする。

 建築家の藤村龍至も、北川フラムによる「奥能登国際芸術祭」に参加した経験に触れ、地域に埋め込まれた記憶を新たな交流に生かそうとしてきた活動を紹介する(〈2〉)。同時に、奈良県十津川村の「減災」の考えを基本とする、「村全体の防災システム」から学ぶべきだと主張する。防災や医療の中枢機能を整備しつつ、村の集落を基礎単位とする自立分散型の防災システムは、日本の中山間地域の未来を考える上で示唆的だろう。小さな集落が連なる能登の復興は、今後の国づくりのあり方を考える契機となりうる。

地元を離れたくない気持ちと現実と

 復興庁の元事務次官である岡…

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    藤田直央
    (朝日新聞編集委員=政治、外交、憲法)
    2024年2月29日7時17分 投稿
    【視点】

    私が能登半島の被災地へ取材に向かったのは、北陸にこの冬一番が寒波が来た1月下旬でした。レンタカーでまず北端の珠洲へ行き、集落ごとに点在する避難所へ生活物資を届ける自衛隊に同行しました。吹雪の中を巡ると、集会所や農業のビニールハウスで、お年寄

    …続きを読む