国家と個人の緊張関係、鮮やかに描く 樋口陽一さんの憲法学の歩み

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編集委員・豊秀一
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 日本の憲法学の理論的な水準を高め、次世代の研究者たちに大きな影響を与えてきた憲法研究者の樋口陽一さん。半生とともに自身の学問の歩みを振り返る「戦後憲法史と並走して」(岩波書店)が2月末に出版された。「国家」と「個人」の緊張関係を鮮やかに描いた「樋口憲法学」とは何か。それはどのように形作られたのか。樋口さんへの取材から考える。

 西欧で17世紀から18世紀にかけて近代立憲主義が成立する過程で、「個人」という考え方が生まれていった構図を、一連の研究を通じて浮かび上がらせたところに、樋口憲法学の大きな特徴の一つがある。日本国憲法についても、「個人の尊重」を定めた13条がその核心であると強調してきた。

 人生に大きな影響を与え、学問の原点となったのが、東北大学大学院時代の1960年から2年間のフランス留学だった。留学先で最も影響を受けたのが、法学者のルネ・カピタンだ。反ナチのレジスタンスに身を投じ、後に大統領となるドゴール将軍と深い信頼関係を結び、政治家としても活躍した。

「栄養源」としての東北大学での研究生活

 樋口さんは「自分の選び取った価値以外、何ものにも拘束されない、怖いものなしの生き方が痛快だった」と回想する。「精神の独立」を体現した知識人の生き方に接したことが、その後の研究で「個人」を深めていく契機となった。

 70年代は、この「個人」と…

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