中学体育の「男女共習」から3年目 7割の学校が「全種目で実施」

忠鉢信一
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 学習指導要領が改訂され、中学の体育が原則的に男女共習となって3年目。共習は今、どの程度、どのように行われているのか。茨城県教育委員会の調査とともに、県内の現場の取り組みを取材した。

 中学体育の男女共習は「生涯にわたる豊かなスポーツライフの実現に向けた重要な学習の機会」と学習指導要領で位置づけられ、2021年度から実施されている。コミュニケーションや協力の中で生まれる学びの教育効果が高いとされる。

 県教委は23年5月に「学校体育調査」を実施。私立と国立を除いた県内229の中学を対象とし、全校から回答があった。

 体育の男女共習を「全種目で実施」と回答したのは、1年生で69・0%(158校)、2年生で66・8%(153校)、3年生で65・9%(151校)だった。3年生の選択体育に限れば73・4%(168校)だった。県教委保健体育課によると、21年の調査と比べて各学年で20校ほど増え、10ポイントほど上がったといい、おおむね7割程度となった。

 一方、「種目ごとに実施」と回答したのは全体の30・7%だった。未実施と回答した3例は、当該学年に生徒がいない学校だった。

 「男女共習」は、どの程度一緒に学ぶことを指すのか。スポーツ庁政策課などによれば、一つの種目の学習の中で準備運動や基礎的な練習、教え合いや話し合いを男女の区別なく行い、試合や体の接触がある場面ではグループやペアに配慮するという方法であれば、共習にあたる。種目ごとに共習だったり男女別々だったりでは、学習指導要領が求める男女共習にはならない。例えば「サッカーは男女共習だが柔道は別々」では共習にはあたらないという。(忠鉢信一)

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 現場では、多様性を学ぶ保健体育が試行錯誤されている。茨城大教育学部付属中学校で教諭を務める佐藤道子さん(40)は、「コロナ禍で体と体を近づけることを苦手と思う生徒が増えた。集団活動の体育に戻しながら男女共習も本格的になり、生徒にとって大きな変化が起きている」と現状を説明する。

 大学と連携した実践的な研究を指導や学習に採り入れる佐藤さん。同中の2年生に男女共習についてアンケートしたところ、130人から回答があった。

 「男女で一緒に体育をすることの良いところ」を自由回答で尋ねると、「普段話さない人と体育を通して仲良くなれる」(女子)、「思ってもいなかった考えをお互いに共有できる」(男子)など。逆に良いところが「ない」「わからない」という回答も約3割あった。

 一方で、「男女で一緒に体育をすることの良くないところ」は、回答した半数が体力や体格の差に関する答えを書いた。授業の過程で結局は男女に分かれてしまうことや、不平等感、全力を出し切れない、という指摘もあった。良くないところが「ない」「わからない」という回答は約2割だった。

 男女共習は、安全や安心に配慮したうえで、計画通りにいかなければ「男女別習」に切り替える柔軟さも必要だと、佐藤さんは考える。「勝負がかかると公平さにも敏感になる。性差を意識せずに行動するのは難しい。一緒にできることから始めて、(その範囲を)増やしていきたい」

 性別だけでなく、障害の有無を超える保健体育の試みもある。同中の2年生は昨年6月、研究を兼ねた体育の授業で、障害のある人と一緒にバレーボールを楽しむ工夫に取り組んだ。1年生で学習した通常のバレーボールは男女別々にチームを作ったが、今回は男女混合。佐藤さんは「男子が力強くプレーしてしまうと一緒にできなくなってしまうことがある。そういう体験をきっかけに、グループで一緒に楽しむにはどうしたらいいか、話し合うことが大事」と話した。(忠鉢信一)

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 ジェンダーと体育の問題に詳しい井谷恵子・京都教育大名誉教授の話 鍛えられた強い心身と高いパフォーマンスを求める従来の体育の発想では、共習は進まない。体育を学ぶ目的は「共生社会の実現」まで広がっており、そのためだと考えれば体育の共習は進むはず。遠慮せずに力いっぱい動きたいという生徒の気持ちも現場でくみ取りながら、内容を工夫していってほしい。

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