年齢差が消える日本 希望か危機か これからの「世代論」が問う未来

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Re:世代論① なぜ「世代論」なのか

 「Z世代」という言葉を使うべきかどうか。若い世代を取り上げる記事や見出しでたびたび悩む。分かりやすく伝わりやすい言葉である半面、世代でくくることへの抵抗があるからだと思う。象徴的な言葉ゆえに、過剰に消費されている感も否めない。そんななか、好みや価値観における世代間の差が縮まっているとの調査が発表され、「価値観でつながろう」との声が上がる。団塊、バブル、ロスジェネ、ゆとり、Z……なにかと「世代」でくくられがちな日本社会。自省も込めて、「世代論」は必要なのか、どう向き合えばいいのか。今こそ「世代論」を問い直し、新たな形を探りたい。

「できる」が増え 「すべき」が減った

 「将来に備えるよりも、現在をエンジョイするタイプである」「いくつになっても恋愛をしていたい」「家庭生活よりも仕事を第一に考える方だ」

 博報堂生活総合研究所が昨年、高齢化ならぬ「消齢化」という世代の意識変化に関するキーワードを発表。20~60代を対象にした30年に及ぶ定点調査の変化から、「生活者の意識や好み、価値観について、年齢による違いが小さくなっている」とした。NHK放送文化研究所の調査でも同様の傾向が見られたという。

 たとえば、「将来に備えるよりも、現在をエンジョイするタイプである」という項目では、全体としては40%前後で30年の変化はあまりないが、年齢別に見ると、若年層で「今をエンジョイしたい」という意識が減少する一方で、高年層ではその意識が増えていて、年代間の違いが小さくなっているという。

 同研究所はいくつかの要因を挙げる。

 「人生100年時代」と言われるように、長寿化などを背景に、気力や体力の面で元気なシニアが増えるとともに、安くて便利な生活インフラの充実やデジタル化の進展により、年代問わずスマホで知りたい情報に難なくアクセスできるなど、生活面で「できる」ことが増えたこと。

 家族のあり方や仕事へのスタンス、しきたりなどに対して従来の常識や慣習といった伝統的な考え方から離れる形で、社会から「すべき」という固定観念が減ったこと。

 その背景として、戦争を体験した世代が少なくなり、戦後生まれ、そしてそれに続く世代が「失われた30年」と言われる比較的変化の乏しい社会状況を共有していることが、年代による価値観や好みの変化、差が消えつつあることにつながっているのでは、と分析する。

 社会から「すべき」が減った結果、たとえばアイドルやアニメを“卒業”しなくていいなど“年相応”や“適齢期”にしばられず、生き方の選択肢が広がり、結果的に他の年代と好みや関心の重なりが大きくなった、としている。

 ライフステージと年齢がひもづかなくなった例として、同研究所は第1子の出産年齢を挙げる。厚生労働省の「人口動態統計」をもとにまとめたデータによると、1975年は16%を占める25歳をピークに、前後2歳程度の範囲で7割の女性が第1子を出産。その後、どんどん年齢幅は広がり、同じ年齢の母親でも子どもの年齢はバラバラ、そもそも子どもをもたない人もいるなど、多様化が進んだことが影響しているのではないか、という。

 同研究所は「消齢化」の傾向は今後さらに強まる、とみる。自動運転やロボット、再生医療など技術の発展によって「できる」ことがますます拡大するからだ。上席研究員の近藤裕香さんは「消齢化は、決して同質化して皆が同じになるわけではなく、多様化していくなかで、結果的に年齢の違う人と好みや価値観で重なる部分が出てくるということ。ある程度は年代によって違う部分や価値観があるけれど、それだけでは計れなくなってきている。だからこそ、世代をまたいだ新しい論が必要なのでは」と話す。

記事後半では、哲学者の谷川嘉浩さんが「世代論がゼロにならない」理由について、『「世代」の正体 なぜ日本人は世代論が好きなのか』著者の長山靖生さんが世代論の背景と今後についてひもときます。

世代論は「ゼロにならない」

 ライトノベルやウェブ小説…

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    杉田菜穂
    (俳人・大阪公立大学教授=社会政策)
    2024年1月9日17時0分 投稿
    【視点】

    生産年齢人口=社会保障制度や経済の中心的な支え手が少なくなるなかで、世代を超えて支え合う関係を増やし、より多くの人が包摂される社会に向かってきた。そうであるはずが、そうではなかったと感じている人ももちろん少なくないが、「借金苦で自殺するよう

    …続きを読む
  • commentatorHeader
    中川文如
    (朝日新聞スポーツ部次長)
    2024年1月9日17時0分 投稿
    【視点】

    世代と世代の間の溝がシームレスになってきているという「消齢化」。生き方の選択肢が広がり、他の年代と好みや関心の重なりが大きくなって……。この論考を読み進めるうち、不肖・私の脳裏で、ある漫画が像を結びました。筆者の佐藤美鈴記者も、やっぱりそう

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Re:Ron

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対話を通じて「論」を深め合う。論考やインタビューなど様々な言葉を通して世界を広げる。そんな場をRe:Ronはめざします。[もっと見る]