タブーでなくなった異次元緩和の「出口論」 それでもいまだ霧の中?

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編集委員・原真人
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 物価高騰で「物価の番人」である日本銀行による政策対応が求められる事態が長らく続いているのに、当の日銀が異次元緩和の手じまいにここまで慎重になっている理由は何なのだろうか。

 日銀は19日、今年最後の金融政策決定会合(年8回開催、メンバーは総裁以下9人)を開き、マイナス金利政策とイールドカーブ・コントロール(YCC=長短金利操作)という柱を中心とする異次元緩和の継続を決めた。

 10年超にわたって続けられている異次元緩和の「出口論」は、黒田東彦前総裁が率いていた今春までは議論することさえ日銀内ではタブーだった。それが植田和男総裁になって、議論や検討が解禁されたこと自体はかなり大きな変化だろう。

 最近の決定会合は「出口」に言及する会合メンバーも増えている。植田総裁も9月の日本金融学会での講演で、出口の局面で心配されている日銀の「逆ざや発生」や「大幅赤字」「債務超過」についてわざわざ言及し、心配にはあたらないと説明してみせた。

 氷見野良三副総裁は今月6日、大分県で開かれた地元経済界との懇談会での講演で「出口」というキーワードを7回も使った。そして「気をつけなければいけないのはタイミングや進め方を適切に判断すること。そこを間違わなければ出口を良い結果につなげることは十分可能」と強調した。

 日銀が今月4日に開いた、この四半世紀の金融政策を総括する「多角的レビュー」会議の場でも変化を象徴する場面があったという。

 参加した多くの経済学者や民間シンクタンクのエコノミストを前に、政策や市場環境を説明する日銀スタッフが「これまで(黒田日銀時代は)インフレ期待に働きかけるという理由で出口戦略を議論できなかったが、植田総裁になって自然体での発表ができるようになった」と本音をもらしたというのだ。

 多角的レビュー会議はマスコミを完全に遮断し、議論の内容は参加者以外に口外無用という閉鎖的な運用だった。それでも日銀の狙いが、まずは経済学者や民間シンクタンクの理解を得ることで出口へのムードづくりをしようとしたのは明らかだろう。

 それを察してか、金融引き締めにどちらかといえば批判的だった経済界からも、背中を押すような発言が飛び出した。

 十倉雅和・経団連会長は18日の記者会見で「金利は経済の体温だとも言われる。できるだけ早く(金融政策を)正常化すべきだと思う」と述べた。

慎重すぎる日銀、その論理と問題点

 出口への地ならしが着々と進んでいるなかで、逆に植田日銀の政策変更ペースが遅く、慎重すぎるのが不思議である。

 植田日銀が発足してから9カ月のあいだに開かれた6回の決定会合で、政策変更はYCCの上限金利を段階的に柔軟化した「微修正」の2回だけだ。

 これはなぜなのか。これまでの植田総裁や内田真一副総裁、氷見野副総裁ら首脳陣の説明をかいつまんで紹介すると、こういうことだ。

 たしかに消費者物価上昇率は…

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